子供が熱を出してしまったが、どうしても仕事を休むことはできない。37.5℃を超える熱だと、多くの保育園は子供を預かってくれない。いったいどうすればいいのか――。
マンガ『37.5℃の涙』(小学館)は、働く親に代わって病気の子供を預かる「病児保育士」の桃子を主人公に、家族や愛情のあり方を真正面から向き合う漫画だ。子供をベビーシッターに預けて休日を送る親に対するバッシングが飛び交う社会で、「病気の子供を他人に預けて仕事に行くなんて!」とこれまた叩かれがちな「病児保育」。しかしもう一歩踏み出してみると、そこには様々な問題が内包されていることに気がつく。
今回は、『37.5℃の涙』の作者である椎名チカさんと、本作のモデルとなった、訪問型病児保育を行っている認定NPO法人「フローレンス」代表の駒崎弘樹さんとの対談をお送りする。「病児保育は、働くために必要なインフラ」とは……?
「母親なんだから休めよ」という妄想を払拭する一冊
駒崎 実は『37.5℃の涙』は連載が終わる頃に読んだんです。そしたら「あれ、フローレンスがやっている訪問型の病児保育だ」って驚いて。後日、担当編集者さんからフローレンスがモデルだと聞いて、「やったね!」と思いました(笑)。なぜ非常にマイナーな「病児保育」を題材に漫画を描こうと思われたんですか?
椎名 これまで恋愛をテーマにした作品を描いてきたのですが、私に子供ができてから、今まで気がつかなかったことに目が行くようになったんですね。
フローレンスさんの事業を知るまで、施設型の病児保育しか知らなかったんです。私は家で仕事をしているので、施設型は合わなくて利用したことがありませんでした。熱のある子供を車に乗せて何十分もかかる施設まで行かなくちゃいけませんし、定員が4人くらいだったりして、激戦なんです。だから最初から諦めていて、もっと便利なものがあればいいのにって思っていたんです。
そんなときに編集部から訪問型の病児保育を行っているフローレンスさんを紹介されたんですね。取材をしてみたら、とても興味深くて「漫画にしたい」と思いました。
駒崎 ありがとうございます。病児保育という仕事ってほとんど世間に知られていないんですよ、訪問型は特に。知名度が低いせいで誤解も多いと日頃から感じていて。
椎名 どんな誤解があるんですか?
駒崎 よくあるのは「病児保育なんて利用していないで親が休めばいい」ですね。ここでいう「親」は主に「母親」ですね。「母親なんだから休めよ、仕事と子供どっちが大切なんだよ」というわけのわからない妄想を押しつけてくる人がいる(笑)。でもこれからは『37.5℃の涙』を手渡して、「このシチュエーションでどうやって休めって言うんですか?」と言えるようになりました。親御さんがどんな状況にいるのか、私たちが100万回言葉を尽くしても伝わらないものが、漫画にすることでスッと心に入ると思うんですよね。そういう意味でこの漫画は、病児保育界にとって偉大な一歩、そして日本初、おそらく世界初の「病児保育漫画」ではないかと思います(笑)。