幼稚園に行けばいいじゃない?
今回は5つの原因を求めたが、結局、「児童福祉に充てる予算が少ない」ことに集約されると思う。最後に、「3歳になるまで自宅で面倒を見て、満3歳(4歳の誕生日を迎える年度)から幼稚園に行けばいいじゃん」という意見もよく目にするので、幼稚園についても書き添えておきたい。
確かに家庭内に専業主婦(あるいは主夫)がひとりいれば、0~3歳のうちは家庭内で育てられるだろう。それが児童にとって母であれ父であれ祖母であれ祖父であれ、家庭内にひとりでも、体も頭も健康な状態の大人がいて、世話をできるなら。以降は幼稚園に通い、社会性を身に付け、ある程度の幼児教育も受け、満を持して小学校進学。そんなふうに育ってきた人もいるかもしれない。ちなみに筆者は母がそのころ専業主婦で、家庭に定年済みの祖父、専業主婦の祖母と曾祖母もいたので4歳・5歳の2年間を幼稚園に通った。「年中さんクラス」のない幼稚園で、バスで送迎されていた。
受験勉強をして入るブランド幼稚園もあり私立は月謝が高いところもあるだろうが、公立だと定額3000~5000円程度の月謝で通えるという“安さ”がメリットとも言える。保育園は保護者の前年所得額によって月額利用料が変動するので一概に言えないが、これよりは高いし、児童の年齢によっても変わる。
しかしいかんせん、幼稚園に子供がいる時間は短い。子供が幼稚園に滞在する時間は、原則「1日4時間」だ。
保育園は、預ける側によって時間が様々で、朝8時に登園して16時に帰る子供もいれば、朝9時に登園して19時に帰る子もいる。預かり時間は原則8時間だが、早朝保育や延長保育で対応している。
幼稚園の場合は、たとえば9時半頃に最寄のバス停車ゾーンに親が子供を送り、14時半頃に同じ場所へ迎えに行く。自宅の近隣にある園ならば、徒歩や自転車による送迎をしている保護者もいる。これだけ短時間だと、家庭外で働く保護者にはちょっと厳しい。一人の保護者が送迎両方を行うとしたら、たとえば10時に出社して14時に退社するほどの時短勤務なら可能かもしれない。あるいは、保護者が2名いて協力体制をとっている家庭の場合、保護者Aが7時~14時に勤務、保護者Bが10時~19時勤務といった具合に、勤務時間をズラせば、朝はBが子供をバス停へ送り、午後にAがお迎えをして……というケースも可能ではある。ただ、夏休みや冬休みなどの長期休暇も小学校のようにあるのが大きなネックだ。
大人になったら仕事に就くと思っていた
子供をつくったら、父母のどちらかが「やむをえない事情」がない限り、働かずに家庭で子の保育に専念するのが、最善なのだろうか。それは何年間? 仮に子供が小学校を卒業するまでとしたら、ひとりっ子でも12年間だ。そう、小学校に進学しても、それはそれで「放課後どうすれば?」という悩みがつきもの。やはり保育園のように夜19時過ぎまで預かってはくれないどころか、14時に下校となったらもうお手上げだ。だから児童館などでおこなわれる学童保育や、習い事の教室を利用する保護者が多いが、学童保育にまで待機児童が発生しているという。
もちろん働き方にはいろいろあって、家庭でできる仕事内容もたくさんある。たとえばmessyのようなWebサイトの編集者やデザイナーやライターは、会社に行かなくたって自宅にPCとネット回線があれば出来る作業を仕事にしている(取材や打ち合わせで外出の必要が生じることも多々ある)。しかし場所にかかわらず「それに専念する時間」を得られなければ仕事はできない。家庭で育児をしながら一日8時間程度の仕事時間を確保するのは至難の業である。
さらに言うなら、「仕事」は、朝9時から夜18時まで会社や作業所でおこなう(=タイプAとする)といった類のものばかりではない。飲食店勤務のキッチンやホールで夜23時に閉店するまで(帰らないお客がいれば閉店作業はもっと遅い時間まで長引くだろう)働く人や、月曜休みの美容師、デパート内の店舗で夜21時の閉店まで品物を売る人などのように、とりわけ接客業に就いている人々は、タイプAの人々が仕事終わりや休日に利用する場所に多くいる。
今の日本では、多様な職種の男女が結婚して子供を産み育てながら2人とも社会で働くという、すごく普通の、当たり前のように思えること(ただし義務でもなんでもないとも思うが)が、実現困難になっている。小学校で「将来の夢」を書かされたり、リサーチ会社が男女両方に「なりたいもの」を調査しランキングを発表したりしているように、大人になったら仕事をするものだと子供の頃はみんな思っている。同時に、「結婚して子供を産み幸せな家庭を築く」ことも、子供時代にはわりと誰でも「きっとそうなる」と漠然としたイメージを持っているだろう。しかし大人になってみると、その両方が相当無理しないと成立しないと気付いてびっくりだ。しかも「大人なんだから働いて納税するのが義務だ」「母親が育児するのは当然だ」「父親はやりたくない仕事でも辞めずに頑張って妻子を養わないと」と言う人たちがいまだにたくさんいる。
しかし、そうした「家族」の在り方は、どうも「伝統的な家族観」でも「人間として自然なこと」でもないらしい。次回、『日本型近代家族』(千田有紀/勁草書房・2011年)を紐解きながら「家族とは何か」を考える。
【シリーズ 少子化と児童福祉/次回更新予定日は7月14日(火)です】
■下戸山うさこ/ 最近アゴ整形をしました。