「ある母子家庭では、娘の高校の担任など周囲の人たちが、母娘が困窮状態していることに気づいていませんでした。バッグはそれなりのメーカー品だし、最新のiPadを所持している。母親は障害年金や児童扶養手当を、そうしたものにつぎ込んでいたんです。もともと家計管理ができない性質に加え、『貧しいと見られたくない』という思いが強かったようです。このささやかな思いが女性の貧困を見えにくくしています」
「生活困窮者は低所得だけでなく、〈低所得+精神疾患〉〈低所得+精神疾患+虐待〉などさまざまな困難が積み重なります。なのに行政の窓口は縦割りで、そうした人たちの困っていることに総合的にアプローチできません。複雑化してしまっている個人の事情を、異なる窓口でいちいち言語化して話すのはたいへんなことです。結果、口を閉ざし、貧困がますます見えなくなる悪循環に陥ります」
鈴木さんが理事を務めるNPOは、早い段階で困窮に陥るのを防止しようと高校の図書室を借りて〈ぴっかりカフェ〉を開催。お茶を飲み、おしゃべりしながら、その気になれば困っていることを打ち明けてくれればいい。「人とつながるのは大変、働いて生活していくのも大変。貧困のなかで育った子はそのための力が十分に育ちにくい傾向があるので、高校にいるうちに力をつけ、社会に出ていってほしい」と鈴木さんは締めくくりました。
第二部 地雷専門店の現場から考える女性の貧困(鶯谷デッドボール代表)
「レベルの低さ日本一の風俗」として6年前にオープンした激安デリヘル店「鶯谷デッドボール」。現在は東京・埼玉に4店舗を構え、約300人の女性が在籍している。履歴書と身分証明書さえあれば即採用、という基準で女性を集めたがゆえに「ブスデブババア」がそろう地雷店と揶揄されることが多いものの、日々、女性たちと接する代表はオープン当初といまとでは認識が変わってきたといいます。
篠原政見さん(以下、篠)「テレビのドキュメンタリーが入ったとき、撮影スタッフから女性たちの何人かに軽度の知的障害があるのではないかと指摘されました。そうでなくても、私のお店にいるのは貧困や離婚問題、借金といったさまざまな困難を抱えた女性ばかりです。そこからは面接で疾患の有無や飲んでいる薬について訊くようになりました。そうしておかないと、彼女たちは病気を隠します。ほんとうは病気でつらくて出勤できないのに、それがいえなくて嘘をつく。さきほど鈴木晶子さんがお話されたような、朝起きられない子も多いですね。でも、嘘が重なると気まずくなって辞めていく……。だから最初に困っていること、抱えていることをオープンにしてもらう、そのぶん長期在籍してね、と方針を切り替えました」
その結果、鶯谷デッドボールにはオープン当初から在籍している女性が7、8人います。出入りの早い風俗業界においてこれは異例といっていいほど。ほかには、他店では働けなくなった、面接で不採用となった女性が多いのも特徴です。