女性は、結婚・出産・育児で仕事を辞めている
ここで、女性就業率と労働力率の問題について考えてみたいと思います。
読者の皆さんの中にも「女性のM字型労働力率」という言葉を聞いたことがある人は多いかもしれません。女性が結婚・出産・子育てを機会に労働市場を離脱し、子育てが一段落したところで再び労働市場に戻ってくる、という現象をグラフで表したときにM字型に見えることから、こうした呼び方が定着しました。
リンク先は内閣府が発表している正規・非正規を合わせた労働力率のグラフです。労働力率とは、簡単に説明すると、15歳以上の人口に占める「働ける人、働きたい人」の割合を意味します。このグラフをみると、昭和58年以降生まれの世代についてはM字型になっていくのかどうかわかりませんが、昭和53〜57年生まれについては、すでにM字型の兆候が確認できます。
年齢階級別・就業形態別に男女の就労者数をグラフ化しているものもあります。
これも内閣府の発表しているものですが、ここでもM字型がはっきりと見て取れます。つまり、結婚・出産・育児を機に仕事を辞めている女性が多く、育児が落ち着いた頃に再び就労するという状況が続いている、ということです。
問題は子育てのために仕事をやめることなのだろうか?
一方で、子育てのために仕事をやめることそのものが問題なのか、ということも、議論しておくべきです。子どもにとって親と過ごす時間はかけがえのないものであり、親にとっても子どもの成長を見届けることは、限られた期間しか享受することのない貴重な経験でしょう。専業主婦(夫)という選択肢そのものは決して否定されるべきものではありませんし、世界中で、ある時期には世帯主が夫で、専業主婦が家庭内の無償労働を行うという家庭のあり方が最も効率よく、経済成長にとって効率的なライフスタイルであったことも見過ごしてはなりません。しかし、時代は変わりました。男性賃金の停滞、非婚、未婚、離婚、教育費高騰など子育てにかかる費用の増大といった様々な原因によって、専業主婦はもはや多くの女性にとって現実的選択肢ではなくなっています。
また、心理学、社会学、経済学などの社会科学では、子どもの生育や発達には専業主婦家庭と共働き家庭で育ったことによる差は無いという研究が多数出ています。「3歳児神話」がまだまだ根強く社会に残っていますが、重要なのは子どもと関わる量ではなくその質です。
こうした科学的根拠があるにもかかわらず「子どもは母親が育てるべき」という迷信がまだまだ強く母親を縛り付けています。そして、本来ならば夫婦の問題であるはずの子育てが、母親のみの問題とされてしまっています。
専業主婦という選択肢が、本当に本人が完全に自由な状態で選んだ生き方、キャリアのあり方ならば、それは素晴らしいものでしょう。しかし、現実には専業主婦以外の選択肢を自由に考慮したうえで選んでいるとはいえない状況が多いのではないでしょうか。
家庭内労働に加えて外で働く負担まで負えない状況、「子どもは母親が育てるべき」という迷信に踊らされている状況、外での勤めでどんなに頑張っても報われないという諦め。そうした状況で選ぶ専業主婦というライフスタイルは、決して本人の選択ではありません。専業主婦が提供している家庭内労働は社会に必要な労働であり、高い価値のあるものです。「専業主婦という生き方、働き方をしたい」と自ら望むのではなく「専業主婦の方がまし」と思って「でもしか専業主婦」になるのは、本人の心からの選択ではなく、社会に選ばされているのです。
保育園問題に声を上げるのも女性、家庭と仕事の両立で悩むのも女性。すべてが女性の肩に重くのしかかる一方です。会社、保育園、そしてありとあらゆる行政サービスや社会の仕組みが、子育てや家庭と仕事の両立を「女性の問題」として捉え、女性に対するアプローチをしています。しかし「世帯主が男性」という前提で成り立っている社会そのものを変えていかなければ、女性はいつまでたっても「本当に自由な状態で自分で専業主婦という生き方を選ぶ」ということができません。社会が「女性の問題」と考えている問題は、女性が生み出しているのではなく、女性が問題を抱えざるを得ない社会によって生み出されているのです。
そして、女性が完全に自由な状態で様々な可能性を検討したうえで専業主婦を選ぶことができる社会では、きっと男性も同じように様々な可能性を検討したうえで家庭に入ること、外で働くことを選択できるようになるでしょう。
こうした選択肢を考慮するにあたり、非正規雇用という働き方についても検討すべきです。日本では非正規雇用のネガティブ面が強調されることが多いですが、世界には非正規雇用が労働者のワークバランスを保つ新たな働き方として機能している国もあります。次回はもう少し詳しく非正規雇用について考察していきたいと思います。
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