不明瞭な未来が、会社選びを「将来性」から「自分の個性」に変えている
日本の産業は、農林水産漁業といったいわゆる第一次産業が長い間基盤となっていました。しかし高度経済成長期頃からそれが圧縮され、製造業や建設業を中心とした「ものづくり」、いわゆる第二次産業が中心になっていきます。その後モノ以外を扱う、サービス業や金融・保険業といった第三次産業がより大きくなっていき、今日にいたっています。
第一次産業の現在の従事者は日本では国民全体の4%、第二次産業は25%、残りの7割程度が第三次産業です。働き方という視点からは、第一次産業の衰退と第二・第三次産業の繁栄は自営業から大企業に雇用されて働くスタイルへの変化、いわゆるサラリーマン化として位置づけることができます。
こうした働き方の変化は、会社を選ぶ際の意識にも反映されています。日本生産性本部は新入社員を対象に会社の選択理由の調査を長年行っていますが、高度経済成長期の影響がまだ残る1970年代から、バブル期の80年代、景気が低迷し非正規雇用が一般化するゼロ年代と新卒者の意識は大きく変わっています。その調査結果を図1に示しました。
まず目につくのは、「自分の能力・個性が生かせるから」とする者の割合が継続的に上昇していて、2012年度には最も高い割合を占めているという点です。個人的な能力や個性が介在する部分がそれほど多くなかった第二次産業から第三次産業が中心となったことで、個人的な能力を重視して就職先を選ぶようになったと言えるでしょう。そのことは「仕事がおもしろいから」が、1990年代以降上昇傾向にあり、2012年度には 2番目に高い割合を占めている点からも明らかです。
対照的に継続的な低下を示しているのが「会社の将来性を考えて」とする者の割合です。終身雇用や年功序列が前提となっていた1970年代と、そのような前提を共有できなくなった今日のギャップがここにも表れています。
「会社の将来性」ではなく「自分の能力・個性が生かせる」「おもしろい」といった観点で働き先を選ぶようになったという社会変化からは、自分らしさや人生の意義について仕事を中心に考える人が増えたという様子を想像することができます。しかし、実際にはそういうタイプはそれほど多くはないような……という実感を持つ人も少なくないのではないでしょうか?
今日的な働き方の特徴を抑えるためには、働くことへの意識の変化だけではなく、働くこと自体の位置付けが変化している点も押さえておく必要があります。そこで、1970年代から今日にいたるまでの「仕事と余暇」の位置付けについての変化を追っている、NHKの「日本人の意識」調査をみてみましょう。
1970年代には最も多かった「余暇も時には楽しむが、仕事のほうに力を注ぐ」が1990年代からは15ポイントも減っていて、入れ替わりに「仕事にも余暇にも、同じくらい力を入れる」が伸びている様子を読み取ることができます。1970年代の流行語である「モーレツ社員」とは、仕事を生活の中心に据えてプライベートを犠牲にしてがむしゃらに働くサラリーマンをあらわした言葉ですが、これは高度経済成長期から1970年代にかけてのスタイルを端的にあらわしているといえそうです。「自分の能力・個性が生かせる」「おもしろい」といった項目が増加する背景には、同じ会社に定年まで依存できるとは限らなくなったという社会背景の中で余暇とのバランスをみながら仕事にやりがいを見出したいという労働観があるといえそうです。