マンションは分譲者から修繕積立金を集めて、定期的に修理や外装のメンテナンスをするのが普通。それがきちんと行われていれば、建物の持ちはよくなるという見込みでしょう。たしかに人間だってほったらかしよりは定期的にメンテナンスをしている方が長生きするものですよね。
――建物に寿命はないのでしょうか? ヨーロッパだと100年以上も前に建てられた家を丁寧に住み継いでいる人がいて、個人的にはそういうスタイルに憧れますが、日本でも可能なんでしょうか。
高橋「それはこれからの話ですから、断言できません。現在進行形で正解を探しているところではないでしょうか。古い物件に手をかけて住み継ぐ決断をする場合は、なおさら住民の意識の高さが鍵になりますから、管理のよいマンションを選ぶ必要がありますね。マンションごとに状態に差はありますが、都心に住むことにこだわる人であれば、ビンテージマンションと呼べるような物件は現実的な選択肢でしょう。立地と状態がよいマンションなら、転売にも有利です」
――地震はどうなんでしょうね。当連載では、「購入物件に越した当日に、3.11の震災が」という女性が2名もいました。
高橋「それも中古マンションの場合は、はっきりと判断できませんよね。たとえば、いままでの災害をベースに建築基準法で耐震基準が設けられているわけですが、中古物件にはそれは当てはまりません。近ごろは住宅診断士が住宅の劣化状況、改修すべき箇所やその時期などを見きわめ、アドバイスを行うホームインスペクション(住宅診断)の分野も盛んになってきていますが、実際すでにできあがっている中古マンションをどれぐらいの精度で診断できるかは、未知数です」
中古マンション市場はいまが過渡期
日本における耐震基準は世界的に見ても大変厳しいといいます。中でも1981年の「壁量強化」という改正が大きいとされていて、中古市場では1981年以降の物件が人気。でも、あくまで耐震基準は公的基準であって、1981年以前にも基準以上に堅牢なつくりの建物もあれば、1981年以降でも基準ギリギリの建物もあるわけです。実際、過去には大々的な構造計算書偽造問題もありましたし、近年でも建築基準法違反の建物が相次いで告発されています。こういった現状を改善するために、ホームインスペクション(住宅診断)が注目されているのですが、まだ新しい分野で今後の発展が望まれているところといった状況のようです。
そもそも、マイホームを持つという発想自体が、第二次世界大戦後に生まれたもので、マンションに至っては、資産として価値が認められ一般の人々がローンを組んで購入するようになったのは1960年代から。ですから、築50年、40年のビンテージマンションがいまほど多く存在する時代は過去に例がないのです。とはいえ、人生が限られている以上、これらの建物の先行きを見たうえで購入するという選択肢は、いまの時代に生きる私達にはありません。また、今後少子化が進んだとき、不動産の常識がどう変わるのかについても、確実なことは誰も言えないのです。
高橋「得か損かという観点よりも、自分はどういった人生をどこで送りたいかという観点で判断すると、間違いが少ないですよ」
先の状況が見えないだけに「損しないこと」にこだわると、いつまで経っても住宅購入には踏み出せないかもしれないですね。「完璧な条件というのはないですから。勢いがあれば乗り切れるという割り切りも必要です」と、高橋さんは言います。人生で家を買うほどの大きな決断を下せる年代は、案外限られているもの。アラサー世代は、自分の住まい方を考えるのには、ちょうどよい時期なのかもしれません。
(蜂谷智子)