女性候補者・議員の比率をあらかじめ決める「クオータ制」
今回の女性候補者当選数は戦後最多だそうですが、いまだ日本の女性議員比率は国際的に低い状況にあります。
女性議員比率が伸びず、政治に女性の声が反映されにくい状況は日本だけでなく世界共通の課題であり、ジェンダーバランスをとるために女性議員の比率を上げる様々な方策は世界中で議論されています。
その中でも具体的かつ最も直接的に女性比率をあげる方法として注目されているのが「クオータ制」です。クオータとは「割り当て」を意味する言葉で、この場合は何らかの方法で議員の男女比を決めるということです。
実際に各国で利用されているクオータ制は以下の3つになります。
1.男女それぞれ議席数があらかじめ決められているケース(法律による規定)
2.候補者の男女比があらかじめ決められているケース(法律による規定)
3.各党内で男女比があらかじめ決められているケース(各党の自主性に任される)
クオータ制の前提には「国会議員、内閣、委員会、政府などの政治の場で女性の数や割合が一定数に達し、政策に女性の声が適切に反映されなければならない」という考えがあります。またクオータ制の特徴には「女性候補者が増えるような環境をどのように実現するか」「女性候補者が当選するためにどうするか」といった「政治への入り口」でちまちまアプローチするのではなく、あらかじめ女性議員の比率を決めてしまうという点があげられます。
障壁を内側から打ち破るクオータ制
単純に考えて、社会のおよそ半分を構成しているのは女性です。しかし女性議員比率は非常に低い。これでは政治の世界に女性の声を届けるのが困難になります。
女性議員が増加しない要因は様々ですが、そのひとつに政治の世界では「専業主婦が家にいる男性議員が暗黙の了解となっている」という点があげられます。独身か、家事や育児を担ってくれる専業主婦が家にいる男性議員や候補者だけが、心置きなく政治活動が行える。それでは、小さい子どもを抱え、パートナーが家事・育児に参加できない/そもそも理解がない女性は、政務活動や選挙演説に十分な時間を費やすことができなくなってしまいます。それどころか「小さい子どもがいるのに立候補した無責任な母親」というレッテルを貼られかねません。
2015年12月、自民党の宮崎謙介議員(当時)が「国会開催中の育児休暇取得宣言」をしたことが話題になりました。同じ自民党内でも理解を示す議員がいる一方で、「けしからん」とする意見も聞かれ、賛否がわかれていました。今後、議論が盛り上がるのでは……と思った矢先に宮崎議員の不倫が発覚し、話題はそちらに奪い取られてしまいましたが、議員の産休・育休問題の存在が世間に認知されるきっかけとなりました。
いまだ十分とはいえませんが民間企業では徐々に産休・育休制度の改善が見られています。その一方で、政治の世界でこうした問題が放置されている。その原因のひとつが、やはり女性議員比率の低さなのです。
一般企業に勤めている女性や働く母親がなぜ苦労を強いられているのか、その原因は「働く女性」「働く母親」がまだまだ社会の主流ではないからです。社会は、主流に合わせて動くものなので、主流ではないもののために動きはしません。最近ようやく「働く女性」「働く母親」そして「男も働くだけではなく父であれ」という考え方が出てきているのは、働く女性、働く母親の数が増えたために、社会がそこに合わせざるをえなくなってきたからです。
同じように、もし議員の半分が女性ならば、女性は政治において十分に「主流」たりえます。そうなると「家庭に専業主婦がいる男性」を前提としている選挙活動、政務活動、国会への出席の仕方などは変更を余儀なくされます。なぜなら、それができない「家庭に専業主婦がいない女性」「妊娠・出産・育児中の母親」といったケースが増えることで、在宅での政治活動や時間短縮の導入、出張日程の調整などのニーズが増え、国会がそういった人たちのケースに必然的に対応せざるをえなくなっていくからです。
そうした配慮が当然になれば「選挙活動ができないから当選できないかもしれない」「子育てをしない悪い母親だ、と嫌われて支持が集まらないかもしれない」ということを気にせずに、政治活動と家事・育児を両立することができます。これらは、世間一般の働く母親の多くが抱える問題と共通する問題なのですから、国会が変われば一般社会もよりいっそう変わる可能性があるのです。
そして、ただ「女性」というのみならず、「妊娠中」「子育て中」「出産直後」「子どもがいない」「シングルマザー」「未婚」など、さまざまなタイプの人がいれば、それだけ「女性」というひとつのグループではない、多様な状況の女性を代弁することが可能となり、そういった多様性に対する対応の必要性も認識されるようになります。
つまりクオータ制は、様々な障壁を取り払うことで女性が政治の世界に参加しやすくするのではなく、内側から障壁を打ち破るためにまずは女性議員の数を増やしてしまう。そのために事前に女性議員の数や比率をあらかじめ定める、という制度なのです。その効果は十分に期待できるものだと思います。