枡野 前半は……なんか……なんて言うんだろうな……。あ! だから、(植本さんの)旦那さん(ラッパーで作家のECD[注])はどう思ってるんだと思いましたね。読んでてね。
植本 うう~~ん!
枡野 そして読んでみたのが旦那さんのこの本(『ホームシック生活(2~3人分)』著/ECD[注])なんですけど。
植本 これけっこう前(に出版した本)ですよね?
枡野 そう。結婚されたときのこととか書かれてて。これ読むとECDさんがいまの僕の年、47歳のときに20代(24歳)だった一子さんと結婚されたと。それでこちら側(『ホームシック~』)から読むとまた……(違う印象がある)。全然恨みがましくないんですよね、ECDさんはね。
植本 うん…そ……恨みがましくない……?
枡野 なんかだから――
植本 えっ、このとき(『ホームシック~』に書かれた頃)も私、けっこうヤバいですか?(ECDさんが)恨みがましくないって?
枡野 たとえば一子さんの本(『かなわない』)読むとですね、子育てのことが書いてあって、けっこうツラそうじゃないですか?
植本 私? はいはい、うん。
枡野 だけど、同じようなこと(子育て)がこちら(ECDさんの『ホームシック~』)にも書いてあるんだけど、あまり愚痴ったりはしてない……。
植本 ああ石田さんは……(石田さん=ECD)
枡野 愚痴はゼロですよね?
植本 そうですね、愚痴はゼロですね。(石田さんは)感情がないんですよ。
枡野 ええっ!?
植本 自分でも言ってますけど、石田さんは。石田さん、感情が「無」なんです。
枡野 え、どういうことなんだろう?
植本 「怒る」はあるけど、でも家の中で怒るとかはなくて、もうそれこそ(脱原発集会デモの)官邸前とかで怒るっていうくらいで。
会場 (笑)
植本 ふふふ。たぶんそこ(官邸前デモ)に全部(怒りは)つまっちゃうんですよね。喜びとかもあんまりない……。すっごい喜んでるところとかも見たことないし。
枡野 そうなんですか?
植本 感情、「無」ですよ。
枡野 そこが好きになったところなんですか?
植本 やぁ~~、でも安定感はありますよねえ。安定してる。なにを言ってもなにをやっても。
枡野 淡々と。
植本 ふふふ。だから、それを悪いようにいうと「無」です。
枡野 へえ~、ふ~ん。だから(それに比べると)植本さんの日記とかは感情の起伏がすごくて。「えっ、こんなにも感情の起伏が!?」と思うけど……。
植本 はい。
枡野 確かにECDさんの文章は、ほんとうに淡々としてますよね。
植本 うんうんうんうん。そうです! 石田さんのほかの本とかって読まれてます?
枡野 それが入手はしてるんですが、まだ読んでないんですよ。これから読もうと思ってます、最初の著書『失点・イン・ザ・パーク』[注]――。
植本 あれもすごいですよ、淡々と。
枡野 あれが出たときにみんな褒めてたから、「あ、褒められてる本だな!」と思って、ちょっとこう……遠ざけてたんですよ。
植本 あっははは! そういうところあるんですね!?
枡野 はい。帯文で褒めてた人……
植本 坪内さん!(=坪内祐三)[注]
枡野 そう坪内さん! あの人なんか、僕のこと絶対褒めないですもん!
植本 あっはは! う、うん、そうでしょう(笑)。
枡野 僕、坪内さんの奥さんに(編集を)担当をしてもらったことがあるんですよ。
植本 へえ~!
枡野 『あるきかたがただしくない』[注]っていう離婚のエッセイを担当してた編集者(で現在はフリーライターの佐久間文子さん)が坪内さんのいまの奥さんなんですけど、そんな近しい関係にもかかわらず(僕には)一切ふれてくれない人だから、(そんな坪内さんに褒められたECDさんに)ちょっと嫉妬があったのかもわかりませんね。
植本 なるほど。
「『離婚したくない!』と言えばよかったのにと!」(枡野)
枡野 それで、今回一番お話ししたかったのは……。だから僕ね、奥さんだった人に「離婚してくれ」と言われたから、(言われるがままに離婚を)して。
植本 はい。
枡野 (それ以前には、結婚後しばらくして)「週末婚にしたい」と言うから週末婚にして。
植本 はい。
枡野 「仕事部屋借りて(そちらに住んで)くれ」と言うから、自分で借りて。
植本 はい……。
枡野 あと、ベビーシッター雇ってくれっていうから雇ったりもしたの。僕のお金でね。だけど「ベビーシッターがいると気が散る」って首にしちゃったりするのね。そういうの(奥さんの主張や意見)にふりまわされてきたから、「離婚してくれ」って言ってきたときも、そっち(奥さん)の言い分聞くしかないと思ってたから、もうそういうもんだと思ってたんですよ。
植本 うんうんうん。
枡野 だけどECDさんは植本さんに好きな人ができてしまっても「離婚はしない」という態度じゃないですか。
植本 はい。
枡野 そんな道があったのかと! (僕も)「離婚したくない!」と言えばよかったのにと。まったく自分にそういう発想がなかったということを、とても悔やみました。
植本 なかったんですか?
枡野 はい。
植本 え~~。言われるがまま?
枡野 それはどうだったんですか、植本さん側としては。(夫から)「離婚しないよ」と言われると、それはそれで嬉しいものなんですか?
植本 いっやあ~~、そのときはほんと離婚したかったから……。まぁなんか……嬉しくはないけど……。とにかく「自分には好きな人がいる」ってことを伝えられたことが一歩進んだというか……。う~ん、嬉しかったというか、まぁそれで怒られもせず認めてもらえた。認めたのかどうかは知らないけど。でも……とにかく一歩進んだというのはありましたね。
枡野 はい。
植本 ほっとしたというか……。なんか、「そういうこと言って楽になりたいんでしょ?」みたいなことも言われましたし。
枡野 えっ、ECDさんに?
植本 そうそう。それは(『かなわない』には)書いてないと思うんですけど。「楽になりたいから言うんでしょ?」みたいな。まぁ半笑いですけどね、むこうは。
枡野 それは(ECDさんが)「無」だから? 感情が?
植本 う~~ん、「無」もそうだし、いろいろ……。
枡野 「しょうがないな」みたいな?
植本 「まぁそんなこと言うと思ってたよ」みたいな。
枡野 「でも別れないよ」みたいな?
植本 そうそうそう。「子どもも小さいし、離婚するにしても小学校入ってからくらい」「ちゃんと理解できるくらいになってから子どもに説明しないと」って言われて。まぁそれはそうだなと。ちゃんと、うん、しないとなと思いましたね。そう言われるとね。
枡野 ふう~ん……。