社会

今の世を「若き女性詩人」として生きることの生きづらさ/『洗礼ダイアリー』文月悠光さんインタビュー【前編】

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女は許してあげなければならないという「風潮」?

――文月さんは新刊『洗礼ダイアリー』の中でも、女性詩人という存在として外部から何かしらのレッテルを貼られてしまうことの息苦しさについて書かれていますよね。「女性」で「詩人」なのだから、セックスや濃い恋愛をしなければならない――男性客からぶつけられたその言葉から始まる「セックスすれば詩が書けるのか問題」は、webで公開されたときにも話題になりました。女性が職業についたとき、男性には与えられないはずの属性やキャラクター性のようなものが紐付けされてしまうという現象について、どう思われますか。たとえば、看護師の女性は献身的で優しい、とか、キャリアの女性は性格がきつい、のような……。

文月 個人的には、職業でキャラ付けをされてしまう問題って男女問わずあると思っています。たとえば「教師」だったら聖職だから、社会的なルールを守る存在でいなきゃいけない、というふうに、勤務時間以外のところでもその職業や性質を演じなければならないということがある。でもそう考えたときに、なぜ女性が職業的なキャラクターを紐付けされなければならないのかっていうと、やはり職業以前に「女性」を演じることを求める空気が社会の中にあるんですよね。看護婦さんには献身的であってほしいとか、女性詩人にはハチャメチャな恋愛をしてほしいとか……それが幻想だっていうことは、少し考えれば分かることだと思うんですけど、おそらくそこまで考えて発言していない。「何が悪いの?」という感じだと思うんですよ。だからそういう空気にさらされている女性自身も、自分がそこにいることで抑圧されるとか、生きづらさを感じることに気がつく人もいれば、気づかない人もいるんじゃないかな。だってそういうふうに育てられてきてしまったから、そういうふうに周りから扱われてきたから。

職業性で要請される役割はあるにしろ、その職業自体を変えることはある程度可能ですよね。でも、女性であることや、女性として周囲から求められる役割は、そう簡単には変えられない。私にしても自分自身の肉体的な性別に対しては違和感を持っていないわけで、それに対する周りの見方が気持ち悪いと思うだけ。「なんで私のほうが変わらないといけないの?」「なんで男性側の都合を背負わなくてはいけないの?」というのが、多くの女性の本音だと思いますけどね。

――女性ってやっぱり受け入れたり、許す存在でいなければならないみたいな「母性」が求められるというか、たとえば女の人が男の人から何か不愉快なことをされた場合でも、「男の人はそういう生き物だから仕方がない」「女は許してあげなきゃ」と思わされる風潮がありますよね。

文月 「男の人の浮気は許してあげなきゃ」みたいなものですよね。でも、そういう「許してあげるのがいい女」みたいな考えって、男性に対してもすごく失礼だし、女性の側も「飲み込むしかない」というだけですよね。私も何か不快な言動にさらされたとき、その場では言い返せなかったとしても、その人のことを「許した」とは全然思っていません。「黙る(けど許していない)」という姿勢ですよね。その場で言い返してしまうと、相手を断罪したり、つるし上げることになってしまうから、「そういうことをして場の空気を乱すよりも、その場の雰囲気を良いものとして収めなくては」という気持ちが強く働いて、だから何も言えなくなる。

女性って、幼少期から「場の空気を読みなさい」という抑圧をかけられていて、意見を主張することよりも周囲に同調することを推奨されやすい。かといってそこで言い返しても、「女性のヒステリー」で片付けられてしまうのが目に見えているし、仮にそこで泣き出して、「そんなふうに言われて傷つきました」と取り乱したら、「あいつは面倒くさいから次から飲み会呼ばないでおこう」とか「じゃあ次から仕事振らない」と排除されてしまうだけ。損するのは言い返した側になることが、事が起きたその瞬間にもう分かってしまう。だから黙らされてしまう、っていう構造の問題なんだと思いますね。

「許してあげなければならない風潮」って、「風潮」という形にして責任を負いたくないだけで、よくよく考えればそういう細かな構造があるのが分かるはず。それを「風潮」という一言で収めてしまうのは怠慢という気がします。思考停止にすごく便利な言葉だなと。みんな本当にそれでいいの? と感じますね。
(聞き手・構成/餅井アンナ

※「世界の半数、でも社会のマイノリティ」としての女性――『洗礼ダイアリー』著者・文月悠光インタビュー【後編】」に続く

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餅井アンナ

1993年生まれ。ライター。messyでは家族やジェンダー、生きづらさについての問題を取り上げた文学作品のレビューなどを書いています。食と性のミニコミ誌『食に淫する』制作。

twitter:@shokuniinsuru

http://shokuniinsuru.tumblr.com/

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