社会

給食を食べられない子どもは「自業自得」なのか――『給食費未納』鳫咲子氏インタビュー

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朝ごはんを食べない子どもが、給食も食べられない理由

――給食費無償化を阻む事情というのは何があるんでしょうか?

 国が子供の問題に対して本腰を入れていない、というのはやっぱりありますよね。政治家は、票が取れる政策を掲げたがるじゃないですか。そうすると、公共事業や高齢者問題の方が圧倒的にウケがいい。子供がらみのテーマはまだ弱いんです。待機児童の問題はだいぶコンセンサスが得られましたけど、学校給食の問題となるとまだまだ「お母さんの愛情弁当が一番だ」なんて話をされる方も多かったりして……(苦笑)。

――これだけ働くお母さんが増えたのに、手弁当まで作らなければというのはしんどいですよね。「弁当ぐらい作れるだろう」と思っている人は仕事をしつつ、自分で毎朝お弁当を作ってみてほしいです。

 そうですね。給食並みの栄養価を持つお弁当を、毎日用意するのは大変です。それを示すデータとして、日本の子どもは、高校生になると食事のレベルが下がるというのがあるんです。高校生だと、お昼ご飯を菓子パンやコンビニのおにぎりだけで済ませる子も多いですよね。どうでしたか?

――私は実は、小中学校でも、給食をほとんど食べない子どもだったんです。主食のパンだけを何枚も食べておしまいとか。

 それは、偏食が理由ですか?

――そうですね。わりと貧困寄りの母子家庭で、しっかり作ったご飯を家族で食べるという習慣がなかったので、小中時代はそれこそ菓子パンや麺類ばかり食べていたんですよ。『給食費未納』の中にも出てきますけど、そうやって育つと、「嫌いなものを食べる」とか、おかずの多いご飯を食べるという習慣自体が身についていない確率も高くなりますよね。私も当然太っていましたし、不健康でした。

 当たり前のことですけど、「食」って本当に健康に直結しているんですよね。本にも書きましたが、朝ごはんを食べないで登校する児童は、給食の時間になってもお腹が空かないとか、食べても美味しくないと感じる傾向が強いんです。そして、スナック菓子やジュースの方を好んで食べてしまう。子どもの時の食生活が、将来の病気のリスクに関わってくるという研究結果はたくさんあります。子ども時代の食生活は、やっぱり社会保障として考えた方がいいのではないかと思いますね。

――なるべく多くの子どもを健康に育てた方が、社会の維持のためにもプラスになりますよね。ただ、「経済的に余裕のある家までが無償で給食を食べられるのはずるいんじゃないか」という意見も見られますが。

 社会保障に対しての理解が、「困っている人が利用する制度である」という地点で止まっているのかもしれません。社会保障は、みんなでお金を出し合うことで、共同体の中で誰かが困難に陥ったときのためのセーフティネットを作ろうというのが基本の考え方ですから、いろんな立場の人が参加していた方がいいんです。今セーフティネットが必要ない状態の人でも、いつなんどき支援が必要な環境に置かれるかわからないですよね。

給食がおいしい自治体、まずい自治体、ない自治体

――それにしても、最近は本当に給食のレベルが上がっているみたいですね。私が給食を食べていたのは1990年代のことなので、変化に驚きます。

 そうなんですよ。「給食甲子園」に出場している学校の給食など見ると、栄養価の面でも味の面でもとても優れていて、それぞれの工夫があってすごいなと思います。もちろん地域格差はまだあって、内容の乏しい給食が出ている学校もありますけど、それでも全体のレベルは上がっています。日本の給食は、海外からも視察がくるくらい、実は高水準なんですよ。

※給食甲子園 http://kyusyoku-kosien.net/2015/final.html

――最近では、「給食レシピ」本を出す自治体も出てきましたね。東京では足立区が有名ですが。

 そうですね。足立区は、区長さんが給食に非常に力を入れていらっしゃるんです。子どものセーフティネットとして給食を、という考えもお持ちのようです。

――ただ『給食費未納』を読むと、給食を重視しているかどうかの意識は、自治体ごとにかなり違いがあるんですね。特に関西は、公立中学に給食制度のない地域が多い。完全給食(ミルク、主食、おかず)の未実施率が、全国平均で18.5%の中、40〜60%が未実施の地域がいくつもある。あとはなんといっても、横浜市などの未実施によって神奈川県の未実施率が82%であることが衝撃です。

 給食制度は、要支援家庭の多い自治体でこそ必要なものなのですが、そういう自治体ほど、給食費の未納が多いのではないかといったことも懸念して実施に踏み切らないんですよね。最近でも小学校給食すらままならない地域もありました。横浜は、お金がないわけではないのですが……。

――自治体に財源負担能力がない場合、給食制度というのはどうしても整備が難しいのでしょうか?

 給食実施にあてられる交付金を国からもらうわけですが、「給食実施用」として支給されるお金ではないので、結局公共事業などの方に回してしまうことも多いんです。これはやっぱり、国の支援の仕方に問題があるなと思います。「何に使ってもいいお金だよ」と言って渡されたら、どの事業にまわされるかわかりません。選挙を意識した配分になることもあるでしょう。ですから、学校給食に対して意識の高い自治体は頑張るし、そうでない自治体はどんどん後回しにするという、その繰り返しになってしまいます。

――たまたま給食のない地域でお子さんを生んでしまった方などは大変ですよね。

 そう思います。子ども側から見ても、生まれた場所によってそこまで食に格差が生まれてしまうというのは、やっぱり社会保障という意味で不公平ではないでしょうか。

――子どもの医療費無償化は、選挙に立候補した人もマニフェストとして掲げることがよくありますし、実施されている地域も多いようですが、給食はなかなかそのように、自治体政治のメインには踊り出ないんですね。

 医療には団体があって、政治・行政とのつながりも深いことがよくありますね。給食には、そこまでの「業界」のようなものがないんです(笑)。

ただ、最近では少しそこにも動きがあります。これまで給食は文部科学省の管轄でしたが、そこに農林水産省の連携も加わることになりました。たとえば、地元のいいものを学校に買い上げてもらい、給食を通して子ども達に味わってもらう。食料戦略としての地産地消に、給食も活用していこうという流れです。

――「食育」という言葉がよく聞かれるようになりました。給食はその基盤になりうる仕組みですよね。懸念されるのは学校側の負担でしょうか。

 そこも、そろそろ根本的に考え方を変えていくタイミングかなと思います。たとえば今給食は、教室で先生の指導のもと食べるもの、という意識がみなさん強いですよね。でもそこを変えたらどうか。食堂的な給食施設を設けて子ども達はそこで給食を食べる。そしてその給食施設は最終的に地域のお年寄りにも配食を行うようにする、といったプランも考えられます。

似たようなことを実施し始めている地域はすでにあるんです。今、保育園施設や学校施設と老人ホームの連携など増えてきていますよね。少子高齢化の進む社会ですから、もっと民間への委託を増やすとか、地域の公共食という枠組みを作ることも考えるべきなのではないでしょうか。

――確かに、もっと外部に開かれてもいい分野ですね。最近「子ども食堂」(寄付やボランティアで運営される食堂。安価または無料で食事を提供する)が少しブームになっていましたが、給食というフォーマットを使ってできることもまだまだ多いように思います。

 そうなんですよ。真っ先にやらなければいけないのが、長期休暇中の学童保育などへの配食の実施だと思います。夏休みになったとたん、栄養のあるご飯を食べられなくなる児童も大勢いますから。子どもには、学校を通してせめて1日1食、栄養のある食事を無償で確保する。これは甘やかしでもなんでもなくて、社会への投資として大変有益なものだと思います。

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小池未樹

ライター・漫画家。1987年生。大学卒業後、郷土史本編集、テレビ番組制作、金融会社勤務などを経て、2013年よりライター・編集者としての活動を開始。企画・構成に『百合のリアル』(著・牧村朝子)や『残念な政治家を選ばない技術—選挙リテラシー入門』(著・松田馨)、著書に『同居人の美少女がレズビアンだった件。』『家族が片づけられない』(井上能理子名義)などがある。最近猫が足りない。

twitter:@monokirk

サイト:http://mikipond.sub.jp

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