枡野 あとさぁ、「ほ~ら面白いでしょ?」って感じがダサくないですか、その名前って。ちっとも面白くないよって。それを僕は本人にも言ったし。そしたら僕のことを嫌いな歌人が「素敵な名前!」とか言い始めて。
中村 でもさぁ、それはさ、べつにあなたの美意識が唯一の美意識じゃないわけじゃない? 斉藤斎藤という名前を面白いと思う人がいてもいいわけだしさ。斉藤斎藤がそれを面白いと思っていてもそんなの自由じゃん。なのに枡野さんは「僕は面白くないと思う」だけで済まさないところが不思議なんだよね。
枡野 いや、そこで、本名と言い張らなければいいです。
中村 それも冗談のひとつでしょ?
枡野 それを冗談だと思えないから、僕は!
中村 でもそれを「嘘だ!」っていうのは、また違う気がするんだよね、私は!
枡野 斉藤斎藤は本名だと言い張っていて、でも絶対ペンネームでしょ?
中村 それはツッコミ込みの冗談でしょ?
枡野 そう。
中村 「また~、斉藤斎藤みたいな名前あるわけないじゃないですかあ」みたいなさ。
枡野 でもそういうのに、つきあいたくない。
中村 つきあいたくないのは勝手なんだけど、つきあってる人がいるのも勝手だから! あなたがそこまで怒るのが私にはわからない。
枡野 まぁそれは……
中村 人の趣味に口出すんじゃねーよって思う。
枡野 ちょっと裏にいろいろあるんですけどね……。
中村 あ、そうなの?
枡野 たとえば僕のホームページに短歌を投稿していたことを(斉藤斎藤が)伏せているとか……。
中村 それは黒歴史だと思ってるからじゃん?(笑)
二村 今のお二人の話って、まさに、この枡野さんの本『愛のことはもう仕方ない』の帯文の、うさぎさんの言葉だよね。≪人があなたを理解してくれないのなんて当然じゃないですか!≫――っていうね。うさぎさんって、人間と人間を切り分けて、「ま、そういうこともあるよね」「私は私の頑固さをやるけれども人には強要しない」。それは、人が人を理解しないことは、当たり前だからと。
枡野 そこはでも僕は、斉藤斎藤の名前を変えろとは言ってないわけですよ。どうぞご自由に。ただ悪いけど僕はそこに乗らないよって言ってるだけで。そこで彼の名前を変えさせようとしたら酷いけど……
二村 そんな権力はないでしょ。王様じゃないんだから(笑)。
枡野 ないし、でも……
二村 「おまえのペンネームはセンスがないから禁ず」みたいに御ふれを出すなんてさ(笑)。
枡野 だからせめて僕ぐらいは「違うぞ」って言ってあげなきゃと思ってるの。
中村 なら、「僕は嫌いです。以上」でいいじゃん。
枡野 だってさぁ……歌人界じゃ、いい名前ってことになってるんだよ!?
中村 いいじゃない! そう思う人がいっぱいいるんなら! 「あ~、自分の感覚はマイノリティ(少数派)なんだなぁ」って思ってれば!
枡野 だとしたら、歌人界、最悪のセンス……。
中村 なんで? 私だってしょっちゅうそんなことあるよ!? 私が面白~いって思う映画がコキ降ろされたりすると、「あ、私ってやっぱりマイノリティなのかなあ」って。でもマイノリティの視聴者もいないと監督やってけないからさ、だから「私だけはファンだよ❤」みたいなさ。コキ降ろしてる人たちに対しては、ま、しょうがないな、みたいな感じじゃん?
枡野 そうですね!
【第6回の注釈】
■雨宮まみ
作家、AVライター。1976年生まれ。著書に『女子をこじらせて』『ずっと独身でいるつもり?』『女の子よ銃を取れ』『自信のない部屋へようこそ』、対談集に『だって、女子だもん!! 雨宮まみ対談集』などがある。「こじらせ女子」の命名者としても有名。このトークイベント収録後の2016年11月に急逝。筆名「まみ」は穂村弘の代表作からとったという。
■デーモン小暮
ロックバンド『聖飢魔II』のボーカル、タレント、大相撲評論家。紀元前98038年生まれ。名称は「デーモン小暮」「デーモン小暮閣下」「デーモン閣下」と変遷している。1993年に一般女性との「隠し子スキャンダル」が起きた際には、<交際相手の女性から「この悪魔!」と罵られた>と女性週刊誌が記事にしている。
■斉藤斎藤
歌人。1972年生まれ。歌集に『渡辺のわたし』などがある。
■カンパニー松尾
AV監督。1965年生まれ。2013年に公開された、劇場向け映画としては初監督作品となる『劇場版テレクラキャノンボール2013』がAV映画としては異例の大ヒットを記録し、一般映画誌である『映画秘宝』の2014年度映画ベストテンの9位にもランクインした。さらには芸人や映像関係者たちからも高い支持を受け、地上波テレビ番組『芸人キャノンボール』などを始め、「インスパイア&リスペクト作品」も多く制作されている。
■熊谷晋一郎
東京大学先端科学技術研究センター准教授。1977年生まれ。脳性まひ者であり、車椅子で生活している。著書『リハビリの夜』で第9回新潮ドキュメント賞を受賞している。
■タニノクロウ
劇作家、演出家、精神科医。『庭劇団ペニノ』主宰。1976年生まれ。医師としての病院勤務と演劇活動を兼業している。2016年に『地獄谷温泉 無明ノ宿』で第60回岸田國士戯曲賞を受賞。
■松尾スズキ
劇作家・演出家・俳優・映画監督・脚本家・小説家・コラムニスト。劇団『大人計画』主宰。1962年生まれ。本名:松尾勝幸。『ファンキー! 宇宙は見える所までしかない』で第41回岸田國士戯曲賞受賞。映画監督作品に『恋の門』『クワイエットルームにようこそ』『ジヌよ、さらば』、小説に『同姓同名小説』『宗教が往く』『老人賭博』『私はテレビに出たかった』などがある。ちなみに枡野浩一は『恋の門』に「イメクラ客1」の役柄で出演している。『クワイエットルームにようこそ』文春文庫の解説は枡野が担当。
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■中村うさぎさん
作家・エッセイスト。1958年生まれ。雑誌ライーター・ゲームライターを経て、『ゴクドーくん漫遊記』シリーズで人気ライトノベル作家となる。その後、自らの「買い物依存症」を描きつくしたエッセイ『ショッピングの女王』でエッセイストとしても大人気となる。その後もさらに「美容整形」「ホストとの恋愛」「借金と税金」「デリヘル風俗」など自らの実経験・実体験を通じての赤裸々なエッセイを発表し続けている。2013年に100万人に1人ともいわれる難病「スティッフパーソン症候群」を発症、現在も治療を続けている。最新著作は「形見分けの書」とも表明しているエッセイ『あとは死ぬだけ』。メールマガジン『中村うさぎの死ぬまでに伝えたい話』も発行している。
■二村ヒトシ監督
AV監督。1964年生まれ。慶應義塾大学在学中より劇団『パノラマ歓喜団』を主宰する一方、AV男優としてもデビュー、多数のAVに出演する。劇団解散後はAV監督となり、女が男を攻める「痴女モノ」や美少年が女装する「女装子モノ」の第一人者といわれるなど、現在に至るまでAV業界の第一線で活躍している。男女の恋愛と自意識をテーマにした著書『すべてはモテるためである』『あなたはなぜ「愛してくれない人」を好きになるのか』がベストセラーとなり、セックスと恋愛をめぐる論客として注目を集める。さらには、男性のアナルを開発する器具『プロステート・ギア』のプロデュースも手掛けている。AVの代表作に『美しい痴女の接吻とセックス』など。最近の著作は対談や鼎談が多く、『オトコのカラダはキモチいい』(金田淳子・岡田育との共著/KADOKAWA)、『日本人はもうセックスしなくなるのかもしれない』(湯山玲子との共著/幻冬舎)、『モテと非モテの境界線 AV監督と女社長の恋愛相談』(川崎貴子との共著/講談社)、最新刊に『秘技伝授 男ノ作法』(田淵正浩との共著/徳間書店)などがある。
(構成:藤井良樹)