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嘘をつくのも嫉妬心を隠すのも、「ズル」だと思ってるの/中村うさぎ×二村ヒトシ×枡野浩一【7】

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心から愛を信じていたなんて

心から愛を信じていたなんて

 全7回にわたるトークライブ記事の最終章。「加害者は100%加害者じゃないし、被害者も100%被害者じゃない」……いじめと差別、その問題の難しさと複雑さについて、自らの「MXテレビ『5時に夢中!』降板事件」をもとにうさぎさんが語ります。枡野さんには座談会会場からの女性の質問――「私も枡野さんみたいにあきらめが悪いんです。どうやったら、あきらめられるんでしょうか?」が投げかけられました。「僕はあきらめが悪いからこそ、本を何冊も出すことができました」という枡野さん。「ただ、恋愛においてのあきらめのなさは、相手を苦しめることになるから」という二村さん。それに続いて最後にうさぎさんが放った言葉は、質問者の女性にも、枡野さんにも二村さんにも深く刺さったのでした――。

「せめて僕だけは村上春樹が嫌いと伝えなきゃ」(枡野)

二村 枡野さんの斉藤斎藤さんに対しての感情ってさ、村上春樹[注]に対しても同じように思ってる?

枡野 う~ん、村上春樹に関してはみんなが好き好き言うから、せめて僕だけは嫌いだということを伝えなきゃいけないっていう……

中村 あはははは!

枡野 バランス感覚が働いちゃうのかな。

中村 私も村上春樹は嫌いだけど。まぁ初期は好きだったけど。

枡野 たぶん出版界じゃないところでは春樹って馬鹿にされてると思うの。

中村 それはわからないよ?

枡野 部数売れてるから活字界だと多数派に見えるけど。一般の人が春樹の本読んだら、爆笑されると思うよ。たとえばさ、本を読まないEXILE先輩たちにさ、“ダッフルコートを着た僕がポケットをよれよれにしながら、双子の女の子とセックスする”なんて言ったら、「なにこの話!?」「なに考えてんの?」っていうと思うよ。あといつもいつもスパゲティ茹でてたりとか……ペーパークリップが机の上にいっぱいとかさ。もうそんなの「なに言ってんだこいつは!」みたいに馬鹿にされそうだけど、活字界では愛されてるってことなのかなぁって。

二村 本を読む人の間では愛されるけど、ってこと?

枡野 それはべつに根拠なく批判してるんじゃなくて、たとえば彼が作った回文本があるの。回文界ってすごく発達していて、めちゃくちゃ精巧な回文がたくさん作られているのよ。なのに春樹は自分が人気作家というだけで、めちゃくちゃ詰めの甘い回文を得意気に本にしてるの。ハートと鳩を同じ扱いにしてるの、その回文の本では。ハートと鳩はべつじゃないですか?

二村 またそういう話が資料も見ずにツラツラ出てくるっていうのはさぁ、枡野さんはもう大好きなんだね、春樹が(笑)。

枡野 このことは毎日新聞のコラムで書いて、ちゃんと批判したんだけど。これはだって、回文界の人はみんな思ってるはずなんだよ。

二村 なるほどね。

枡野 ということを僕は自分の役割だと思っちゃうところがあって。「どれだけ春樹さんが人気者であっても私だけはあなたの回文を認めない。なぜならばハートを鳩と同じだとしてるからです」。回文界ではもっと厳密にね、小さい「っ」でさえも引っくり返っても一緒になるように作ってるんです、みんな。だからハートを鳩にするなんていつの時代の……

中村 だから、そういうこだわりもさ、やっぱり枡野さんが認めなきゃいけないのは「嫉妬」だと思うんだよね。村上春樹が売れてることに対しての嫉妬もあるだろうしさ。そういうのは私もあるからさ。なんでこんな奴が売れてるんだよ、私の本読め、みたいな。まぁそう思うかどうかはべつだけど。あまりにジャンルが違いすぎるからさ。でも、なんでこんなのがいいと思うのかなぁみたいなのはある。ただそこで、あなたのように激しく憎んでしまうとさ、自分の嫉妬みたいな感情をさらけ出してる気がしてさ、「あぁこれはしょせん嫉妬だな、説得力ないな」と私は思っちゃう。

枡野 うん。ただ僕は、人より自分の嫉妬心には敏感なほうだと思っていて。無自覚な嫉妬が一番醜いと思ってるのね。だからちゃんと批判を書くときも「春樹さんは売れていてうらやましい」と書くし、「穂村さんはいいな」とか書くし、「斉藤斎藤くんはあんな名前であんな短歌なのに歌壇に受け入れられていて立派だな」とか。そうやって書きますよ。

二村 逆にカチンとくるよ、そう書かれた方は(笑)。

枡野 僕はそれは嫉妬だと思って書いてるし。むしろさ、みんな無自覚に「これは嫉妬じゃない」って論理武装するじゃない?

二村 それは不倫した芸能人に対しても、スキャンダルで炎上して消えちゃった政治家とか有名人に対してもね。攻撃する側には「正義」があるから。

枡野 そういうことのほうがよっぽど根が深いと思ってるから、僕はわりと素直に自分の嫉妬を見つめているという意味では、比較的心がきれいだと自分では思ってるんだけど。そういうとうさぎさんに「なんて図々しい」と言われる(笑)。

中村 心がきれいだなんて、自分で思うなんて図々しい!(笑)

枡野 でも、どう見ても僕、自分で人生振り返って他人と比較したときに……。うさぎさんは心がきれいな人ですよ。

中村 いやいやいや……。

枡野 だけど、僕より心がきれいな人ってそうはいないと思ってるんだよね。

中村 そうなんだ……。

枡野 ほんとに。

中村 ふ~~ん。

枡野 きれいっていうのは僕の基準なんだけど。

中村 そうだよね。

枡野 だから、そうなんだけどさ。それにしても「なんてみんなズルばっかしてんだろ」「なんでみんな嘘ばっかつくんだろ」って思ってるの、僕は。

中村 ズルか……!

枡野 ズルはあんまししないの、僕は。

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枡野浩一

歌人。1968年東京生まれ。小説『ショートソング』(集英社文庫)ほか著書多数。短歌代表作が高校の国語教科書(明治書院)に掲載中。阿佐ヶ谷「枡野書店」店主。二村ヒトシさんとのニコニコ動画番組『男らしくナイト』(第1回は9/24夜)、中村うさぎさんとのトーク企画『ゆさぶりおしゃべり』(第1回は10/7夜)など、最新情報はツイッター【@toiimasunomo 】で。

@toiimasunomo

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