社会

「不快な思い」とは何か 日本マクドナルドの対応から考えるメディアと差別の関係

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マクドナルド動画の問題点

では、マクドナルドが理解すべき動画の問題点とは何だろうか。

端的に言えば、それは「普通の人は異性愛者で、同性との性的接触を必ず嫌がるものだ。一方で普通じゃない同性愛者・両性愛者は同性との性的接触を必ず好み、相手の同意なしに接触を試みるので、厄介な存在だ」という偏見の上塗り、強化である。

キスをされた怪盗ナゲッツを見ると、その不快感はしっかりと明確に表現されており、見事に偏見に沿う形で「罰ゲーム」が成立している。

(しかし実際同性との性的接触を楽しむ異性愛者が少なくないことを、多くの同性愛者や両性愛者は知っている。さらに医学や社会調査の分野では、同性愛者と両性愛者に注目するだけでは HIV 対策に限界があったため、1990年代以降「MSM(men who have sex with men・男性とセックスする男性」という、行為に着目したカテゴリーが用いられているほどだ。)

一方、キスをする側としては両性愛者であることを公言しているカズレーザーが起用され、動画では喜んでキスをしているように描かれている。

つまりここでの「罰」とは単に同性間の性的接触ではなく、性的な欲望を向けられること、つまり互いに嫌がりながらのキスではなく、喜んでいる相手にキスされるという性的搾取をも含めての「罰」が表現されているのだ。そしてそれを怪盗ナゲッツがあからさまに嫌悪して見せることで、同性から同性への欲望は「厄介」なものとして表現される。

こうして既に世の中にある偏見を前提とし、それに便乗し、結果的に元の偏見を強化する——そういう効果を持つ動画だから、批判されたのだ。

もう一つの問題点

そもそも怪盗ナゲッツもカズレーザー演じるキャラも別に異性愛者でも同性愛者でもなく、単にカズレーザーは怪盗ナゲッツにキスをしたいと思う人で、怪盗ナゲッツはカズレーザーにキスされたくないと思っている人なだけだ、という無理のある弁解を仮に受け入れたとしよう。

あるいは、怪盗ナゲッツは同性愛者だが、カズレーザーのことは全然タイプではなく、キスなんてしたくないと思っている、という謎の裏設定があったとして、脱力はすれどそれを受け入れたとしよう。

それでも、性別を問わず嫌がる相手に無理やりキスをするという明確なセクハラ、性暴力を問題視するどころか笑い事として扱っている時点で、既にこの動画は大きな問題を抱えたコンテンツである。

実際、女性がセクハラについて抗議したとき、よくある反応は「ノリ悪いな」というものである。その場の空気を壊さないために笑って受け流す――そんな処世術を強いられている女性は多く、この動画はそうした「ノリ」優先の社会的圧力を前提とし、それに便乗、また強化している。

差別のシステムとメディアの責任

「前提」「便乗」そして「強化」という言葉を使ってきたが、これは差別が個人間の嫌がらせなどとは異なり、社会制度や思想に深く侵食しているものだからである。

差別とは、何もないところに生まれるわけではない。「こういう人たちは、こう扱っても良い」という認識があり、それにのっとって人々がそれぞれ行動し、それが日常生活やメディアを通して私たちの目に入り、私たちはさらに認識を強め、それに沿った行動をしてしまう。それがまた生活やメディアなどを通して……と、循環するシステムを差別と呼ぶ。

メディアのコンテンツが度々批判を浴びるのは、単にそのコンテンツ自体が不快であるとか、それを見て傷つく人がいるとか、そういう理由ではない。メディアが差別のシステムの重要な役割を担っているからなのだ。

メディアがシステムに便乗し強化するか、あるいは循環させることを拒みシステムに抵抗するか。いずれにしてもメディアのコンテンツに関わる人間には、非常に大きな責任がのしかかる。

10人中9人が「不快だ」と思うコンテンツでも、世に出すべきものもあるのではないか?  10人中9人が「愉快だ」と思うコンテンツでも、公開してはいけないものがあるのではないか? ――そういう葛藤を、自問を、責任感を、今のメディアはきちんと引き受けているだろうか。

いやむしろ、進んで「お客様」の快・不快に左右されることで、その責任を「お客様」に転嫁して済ませているというのが実態だろう。こうして明日もまた、昨日までと何ら変わらない風景が戻って来るのだ。
マサキチトセ

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マサキチトセ

評論家(クィア理論・フェミニズム・社会運動論)。LG(B)T。関心は貧困、セックスワーク、刑務所制度、LGBT運動。YouTubeでマイノリティフレンドリーな『クィア英会話』っていうチャンネルやってます。

ブログ:包帯のような嘘

YouTube:クィア英会話《マサキ》-Masaki

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