連載

『りぼん』の優等生・水沢めぐみがスポ根バレエ漫画で教えたこと/『トウ・シューズ』

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水沢めぐみ トウ・シューズ

『トウ・シューズ 1』りぼんマスコットコミックス/集英社

 今回取り上げる90年代『りぼん』作品は、バレリーナを目指す少女の物語『トウ・シューズ』(1997~1998年)。作者の水沢めぐみは1979年のデビュー以来長らく『りぼん』で活躍していた漫画家で、最も認知度が高い作品は『姫ちゃんのリボン』(1990~1994年)であろう。かくいう私も『姫ちゃんのリボン』に関しては、『りぼん』読者になる前(小学校就学前)からアニメで慣れ親しみ、変身アイテムの真っ赤なリボンに魅了されていた。母親に買ってもらった小学校入学祝いはその“魔法のリボン”で、ウキウキ気分で装着しようとしたところヘアーバンドみたいな造りになっていて、前髪を残したままつけるのにひと苦労、姫ちゃんみたいなスタイルにはならず(そりゃ、あれは絵だから……)、姫ちゃんがしているような変身もできず(マンガだから……)、がっかり。私にシビアな現実を突きつけた『魔法のリボン』だが、最近ヤフオクで検索してみると2~3万円で出品されていた。

 魔法と恋と友情を描いた『姫ちゃんのリボン』終了後、水沢めぐみは『おしゃべりな時間割』(1994年)、『ないしょのプリンセス』(1995~1996年)など思春期女子の初恋物語を続けて連載。派手さはないが素朴で愛らしくちょっとメルヘンチックな世界観は保護者も安心の“良いマンガ”だったと思う。プリマバレリーナになるという夢の実現に向けてひたすら踊りつづける少女が主人公の『トウ・シューズ』も素朴さや愛らしいイラストは健在だが、それまでの作品よりもテーマをぎゅっと絞り、努力、根性、葛藤、挫折、栄光といった王道スポ根ワールドが繰り広げられる。

 『こどちゃ』の紗南は劇団に、『あなスキャ』の友香はピアノ教室に、それぞれ幼少期から通っていて、10代前半にしてすでに実力が認められている状態だった。デザイナー志望の『ご近所』実果子にしたって、自分が作った服がフリマで売れずショックを受けるシーンはあっても「自分に向いていないのかも」と目の前が真っ暗になることはなかった。3作のヒロインたちは、物語開始段階で「秀でた才能を持ち、周囲に認められている」という安定した設定が与えられており、彼女たちはそれぞれの才能(女優/バンド/デザイナー)と、恋愛(あるいは家族)との狭間で発生するいざこざについてはめちゃくちゃ悩むけど、自分の才能や力量については悩まない。その点、恋愛はあくまでサブ扱いで、バレリーナを目指すヒロインの険しい道のりをメインに扱った『トウ・シューズ』は、90年代『りぼん』の希少なスポ根作品だった。

 主人公の森野くるみは小5の冬、親友の篠原桃子に誘われて穂坂バレエ団付属研究所の発表会『くるみ割り人形』を鑑賞する。研究所のエースである白河はづきの踊りにすっかり魅了されたくるみはバレリーナになることを決意。桃子が幼少から通う穂坂バレエスクールに入会し、週3回のバレエレッスンに通いはじめる。物語のはじまりはそれから2年後、身長145cmの小柄な中学1年生になったくるみは、いつでもどこでも踊り出すくせがあるくらいバレエに夢中だ。レッスンにはいつも1番乗り。穂坂バレエスクールは全部で12校あるが、特に優秀な生徒はバレエ団付属研究所の研究生に選ばれ、さらにほんの一握りの生徒だけが穂坂バレエ団に入団してプロの舞台に立つことができるという厳しい世界。3歳、4歳といった時期にバレエを習い始めた生徒がほとんどの中、バレエをはじめて2年しか経っていないくるみは、他の同年代生徒に比べて技術が劣り、迫りくるスクールの発表会でも中学生でただ1人だけソロパートがなかった。

 発表会を控えたある日、くるみはバレエ団の団員であり団長夫妻の1人息子・穂坂一臣と出くわす。一臣は18歳(とは思えないくらいに大人びている)。16歳にしてローザンヌコンクール(超難関)で金賞を受賞、2年間イギリスにバレエ留学して帰国したばかりだった。レッスン中のくるみに光るものを感じた一臣は、発表会の5日前になって急遽代役が必要となった『春の精』役にくるみを推薦、自分がくるみを指導すると言い出す。普段は温厚で美形で長身で踊りの腕も抜群な一臣は、あらゆる女生徒の憧れなので、当然くるみはこのときから長く周囲の嫉妬を浴びることに。「なんであんなチビで下手くそな子(くるみ)を特別扱いするの!?」と。あるある、だ。

 読者だって、なんでくるみが一臣に特別扱いされるのか正直よくわからない。主人公だから? しかも一臣、王子様すぎるのだ。レッスンでは厳しかったが、レッスン後に雨が降っているとくるみを自分のコートにすっぽり収めて「送ってくよ」。一臣の身長は183cmで、くるみとは40cmほど身長差がある。ドキドキするくるみ。発表会では失敗もあったくるみだが、短期間での上達ぶりやバレエに対する意欲が認められ、親友の桃子と共に研究生に選ばれる。一臣だけでなく、バレエ教室の上層部はくるみに期待しているのだ。研究所は日曜以外毎日レッスンだと知って「うれしーっ!!」とテンションを上げるほどのバレエ好きで、踊ることが楽しくて仕方ないくるみは、基礎練習に明け暮れながらどんどん味方を増やしていく。一方で、長谷部涼子や香月杏奈などくるみを快く思わず人前でも堂々罵倒するようなライバルたちも登場し、物語はハイスピードで進む。

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中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー

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