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「ゴミ」と見なされている男たちの性を、スマートに捉えなおすことは出来るのか? 坂爪真吾『男子の貞操』

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批評家・杉田俊介さんと、まくねがおさんが、これからの「男らしさ」を考える連載「男らしくない男たちの当事者研究」。前回から現在の「男性論ルネッサンス」再考のために、田中俊之さん、坂爪真吾さん、二村ヒトシさんの著作を取り上げています。今回は坂爪真吾『男子の貞操――僕らの性は、僕らが語る』(ちくま新書)が掲げるリベラルでスマートな男性像について話し合います。

僕らの性は、見えないものにコントロールされている

杉田 さて、前回取り上げた田中俊之さんの『〈40男〉はなぜ嫌われるか』(イースト新書)に続いて取り上げるのは、坂爪真吾さんの『男子の貞操――僕らの性は、僕らが語る』(ちくま新書)です。

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  坂爪さんは1981年生まれ。一般社団法人ホワイトハンズ(障害者の性など、全ての人の「性の健康と権利」を享受できる社会をめざし、「新しい性の公共」を作ることを目指す団体)の代表理事で、セックスヘルパーや不倫問題などの際どい問題に関する本も書いています。気鋭の論客ですね。一読して、僕はまさしく「新世代の男性論」というような、爽やかな読後感がありました。いい意味での「世代差」を強く意識させられます。とにかく、リベラルでスマートな印象。がつがつした肉食的な感じがないし、かといってどろどろしたルサンチマンもない。まくさんはいかがでした?

まく そうですねえ。男の周りにある性の問題やポルノの状況を、分かりやすく丁寧に論じてくれていて、読んでいてぐいぐい引き込まれていきますね。「男の性は、記号に囚われている」という現状分析がハッキリと打ち出されていて、その問題意識が本全体で一貫している。その上で、ならば男たちの性はどうあったら良いかについて、具体的に踏み込んで考えてくれています。読みやすいし、色々考える出発点として、とてもとても良い本だな、と思いましたね。

杉田 坂爪さんは、障害者運動やフェミニズムなどの「当事者主権」の考え方を受け継いでいますね。男子の性はこれまで、外から「こういうものだ」と勝手に定義され、代弁され、批判されてきた。それゆえ男子の性のイメージは非常にワンパターンなもの、貧困なものになってしまった。その結果として、フィクションやAVの中で「記号化された性」を消費するしかなくなった。フィクションの活発化と、実際の性の不活性化がワンセットになっているわけですね。つまり、勃起・射精すら、国家や市場によって無意識のうちに「させられている」。坂爪さんはそれを、アダム・スミスの「神の見えざる手」にならって、「お上の見えざる手」と呼んでいます。フェミニズムに対するちょっとした違和感も述べています。
 そうした現状に対して、坂爪さんは「男子の性は僕等が語る」という当事者主義のスタンスで対抗していくわけです。その場合も、あくまでもデータやエビデンスに基づいた議論を展開していく。男子の性については、そうやってちゃんと当事者の「男子」たちが考えて、当事者の言葉で語っていかないと、結果的に女性や性的マイノリティに負担が押し付けられていくんだ……このへんの他者に対する配慮も、とてもリベラルでスマートですね。

まく 確かに、そういうかたちで書き進められていましたね。

杉田 一般的な恋愛指南の本だと、いかに効率的に口説くか、あるいは手早くセックスするか。そういう話ばかりで、性や恋愛をコンビニ化しようとしますよね。それに対し坂爪さんは、異性との関係を構築し維持するには膨大な時間的・精神的コスト(絆コスト)が必要であり、日々のメンテナンスが大事なんだ! と。それをきっぱりと、ちゃんと指摘したところが、とても重要だと思ったな。

まく うんうん、そうですね。脊髄反射の刺激でなく、過去の経験の記憶とか、目の前のパートナーとの関係を大切に、粘り強く豊かな性を作りあっていこう、という方針は、僕もとても妥当なものだな、と思いましたねえ。

杉田 言われてみればとても当たり前のことなんだけど、僕らが目を背けがちな事実ですよね、これは。恋愛やセックスにロマンチックな一体感を求めがちだから。

まく 読んでいて、目を覚まされるような思いになりますよね。また「お上の見えざる手」という言葉は言いえて妙だな、と僕も思いました。ポイントは、僕たちの性についての行動とか心の動きとかが、実は見えないもの(メディアとか、世間とか)にコントロールされているんだという事実をハッキリ打ち出してくれたことにあるよな、と思います。

杉田 そうそう。

まく だからこそ、僕たちの手で、より良い性のあり方を作っていこう、と。この提案は、とてもスジが通っていて、説得力があるな、とあらためて思いますねえ。

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まくねがお

まくねがお(ハンドルネーム)。シスへテロ男性。二年前からツイッターを使い始め、「男性性と暴力を考える」というテーマで、自分のことや映画のこと等を素材に、呟きながら考え続けています。

杉田俊介

1975年生まれ。異性愛者の男性(暫定)。人の親。批評家。20代半ばから障害者介助をしてきたが、現在はお休み中。著書に『非モテの品格 男にとって「弱さ」とは何か』『長渕剛論』『宮崎駿論』など。

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男子の貞操: 僕らの性は、僕らが語る (ちくま新書 1067)