規制緩和の中には〈幼保一元化〉や〈小規模保育所(ミニ保育所)の年齢制限緩和方針〉なども耳にしますが、保護者としては新たな不安点がたくさんあります。園庭のない小規模保育所は3歳以降の活動量が不十分では? 少人数ですごす環境では集団生活のルールが身につかず、小学校に上がったとき本人が戸惑うのでは? 幼稚園の子たちは皆お昼すぎにはお迎えが来て帰っていくのに、それを毎日目にすることで寂しい気持ちにならないのか等々、心配事が次々と……。
柴田「規制を緩和して柔軟に運営できるようになり保育サービスが提供しやすくなってきている反面で、予算がまだ十分に増えていないので保育士の増員や保育の質の向上がまだ十分にできていない。現場のマネージメントは非常に苦労されているんじゃないかと思いますね。うまくできている現場もあるのでしょうが、中には保育士に無理をさせ、その結果子どもに目が行き届かなくなってしまう誰にとっても不幸な状況が生まれている現場もあります。実際に2004年から2014年にかけて、認可保育所での幼児の死亡事故は合計50件報告されています。主には「うつ伏せ寝」による死亡と考えられ、つまりは、子どもに目が行き届いていなかったことが原因です。もともと『社会保障と税の一体改革』で、保育充実のための恒久財源を0.7兆円確保するという約束だったのですが、結果的に消費税を3%しか増税できていないので、その分、恒久財源の確保は苦労したみたいですね。2017年度予算案を見ると、なんとか確保できたようです。しかし、保育の質の向上のためには、加えて0.3兆円超が必要と定められていて、その恒久財源についてはまだ確保されていないようです。他方で、国の予算がなくても自治体で工夫して、独自に認証保育所などを増やすことで、状況はよくなっているという地域もあるようです。
また、1歳児を認可保育所に入れることが難しいため、育児休業を放棄して前倒しで0歳児を入れる親がいることを受けて、事前に認可保育所を予約できる<入園予約制>といった新しい制度も提案されています。〈0歳児保育のコストの高さ〉は現在、とりわけ問題視されているんです。研究者の一部には、0歳の保育は受け入れないようにして、それで浮いた予算を1歳からの保育に回せば、待機児童はかなり解決すると論じる方もいます」
1歳からのクラスしかない認可園もありますが、現状ではそこに入るためには結局0歳から認可外に預け、点数を稼がなくてはなりません。
柴田「そうなんですよね。家で保育したいと思っているのに、点数稼ぎのために0歳児を預けざるをえないというのは子どもとっても親とっても不幸なことです。0歳の間はしっかり育休を取れ、その後は確実に預けられるという制度を整備したほうがいいかもしれません。統計上待機児童が数パーセントしかいないスウェーデンでは、基本的に0歳児の認可保育は提供されていませんが、育休の間は給与の8割が保障され、1歳からは家庭所得の数%以内というかなり安い値段で認可保育所にほぼ確実に入れることが、法律で保障されています。ここ最近では、日本のデータでも、認可保育サービスや1年間の育休制度がきちんとあったほうが母親の就業率が高まるという研究も発表されています。そのことから、0歳児の間は育休を推奨し、保育の提供は1歳児からという方法を、一部の研究者は推奨しています」
一方で、フリーランスの我々もそうですが、育休というものが存在しない商売では、0歳から預かってもらえないと困るのですが……(笑)。
柴田「もちろん、0歳児から預けて働きたいというお母さんもおられるかもしれないので、そこは慎重な議論が必要ですね。0歳から預けるメリットももちろんあります。私が最近知った研究ですと、親子が常に24時間一緒にいるよりも、しっかりとした認可保育所に預けたケースのほうが、親が〈子どもを叩く〉という行為が少なくなりやすいそうです。虐待で亡くなってしまう子どもは0歳児が最も多いわけですので、0歳児であっても一時保育などの制度はしっかり整えるべきだと思います。未だに人々の意識の中では「保育所に預けるのは可哀そう」みたいな意識もありますが、さきほど紹介した研究結果は、とりわけ精神的に余裕のない親は、子どもを認可保育所に預けたほうが、ずっと子どものためになるということです。こういったことが、政治家に広まり、もっと待機児童問題に関心が集まってほしいですね」
〈保育所は、親だけでなく子どものためになる〉という研究結果が現時点で広まると、その保育所を利用できない現状の親たちが、ますます追いつめられるような気もしますので、ここはやはり待機児童問題を早急に解決していただきたいものです。
柴田「特に与党の政治家の方々にこういった認識が広まるといいのですが……。ただ、やはり難しいのは待機児童問題が都市部に偏った問題であり、国会では後回しにされがちという点です。ですからもっと、自治体の予算を大胆に活用していくことも必要でしょう。それから都市部では、認可保育所だけに頼ると土地代がかかったり建設が反対されたりしてしまうので、保育所だけではなくて、認可保育ママももっと活用したらよいかもしれません。たとえばフランスでは、3歳からは無料で幼稚園に通えますが、それ以前の年齢はどうしているのかというと、保育所に通っているのは1割半だけで、その倍の3割の子どもたちは、認定保育ママに預かってもらっているんです。フランスの認定保育ママは、自宅で子どもを4人まで集めて保育できますので、1対1のベビーシッターよりも効率的です。もちろん研修は必要で、始める前に60時間、受け入れはじめて2年以内に60時間、さらに5年ごとに資格更新が必要です。そのようにして保育ママの質を確保しているのです。そしてフランス政府は認定保育ママを利用する親たちに補助金を出し、その結果普及しています。
フランスにももちろん0歳からの保育園はありますが、都市部は待機児童が多いようです。フランスは女性の社会進出が進んだのがスウェーデンよりも遅れていたため、スウェーデンのように認可保育所を都市計画に組み込んで整備することができず、保育所整備が後手後手になってしまったので待機児童が増えました。そういう点で日本と状況が似ているので、とても参考になると思います。フランスは戦後ずっと出生率が下がってきていましたが、1990年から保育ママの利用補助金が支給されるようになって、その直後の1994年から出生率がV時回復しました。1993年に1.73だった出生率は、今は2.0前後をキープしています」