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「乳首を吸われたくない」私が完全粉ミルクを選択した理由と、母乳信仰

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(C)messy

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 赤ちゃんが産まれたら母乳をたっぷりあげて、すくすく育てたい。妊娠前・出産前の女性のほとんどが、出産・育児に対してそんな漠然としたイメージを抱いているのではないだろうか。私もその一人だった。

 妊娠初期の頃から、乳首や乳輪はでかくなり、検診の際の母乳外来では助産師から「これなら問題なく母乳出そうだね」とお墨付きをいただいていた。産まれた我が子も4キロ近くある大きな男の子で、生後間もない息子を初めて抱いた夫の動画にも、「おっきな子だからおっぱいも上手に飲めそうですよ~♪」という助産師の声が入っていた。

 母子ともに、(授乳に於ける)条件的には一見まるで問題なし。傍から見れば、当たり前で何てことない幸せな光景だろう。しかし、この「当たり前」に苦しまされる日々が産後間もない私を待っていた……。

 初乳を与えたのは産後2日目。最初は助産師の乳首殺し(私はそう呼んでいたのだが……いわゆる乳腺を開通?させる儀式。乳首を抓られ激痛)ばかりが恐ろしくて、息子に「母乳を与える」というところまで意識が回らなかったが、徐々に母乳が滲むようになってきてからは、息子と息を合わせてどう上手く乳首を咥えさせるか、「授乳」という段階に頭も切り替わっていった。

 ここで大きな問題が発生。あまりに単刀直入な言い方で何だかアレなのだが、この一言に尽きる。

「乳首を吸われるのが死ぬほど気持ち悪い」

 もともと敏感な部位なだけに、この事態を懸念したことがないわけではなかった。しかし、実母や経産婦の友人たちの「母性が芽生えれば乳首は性的なものではなくなる」「子を産むとたちまち乳首は蛇口になる」などという話を聞き、自分も産めばきっとそうなるのだろうと思い込んでいたのだが、何度吸わせても「乳首は乳首」、妊娠前と同様の「あの乳首」でしかなかった。

 息子は助産師が言っていた通り、生後間もなくにしてはやはり哺乳力が強かったらしく乳首を最初に吸い込むときはまだよかった。「痛い」という感覚の方が先にくるからだ。しかし、10秒…20秒…と時間が経つごとに徐々に吸い込む力が弱くなってくる。この瞬間からが地獄だった。

 別に「赤ちゃんに性的なことをされてる感覚になって気持ち悪い」などということではない。私だって、この子に栄養を与えたい、と、周りで愛おしそうに授乳をしている母親たちときっと同じことを頭では思っているはずなのに、乳首を咥えさせるとぞわぞわと不快感が襲ってきて、それに伴い全身に鳥肌が立ち、それが10秒も続くといよいよ発狂しそうになる。

 産院もまるで他の選択肢など存在しないかのように、当たり前に母乳での授乳指導をしていたことから、早くも入院中に「授乳」という行為が苦痛でしかなく、3時間ごとに向かう授乳室が、私には拷問部屋のような場所になってしまっていた。

 熱心な助産師たちのこの授乳指導は、私のような思いさえしていなければ、慣れない母親たちにとって有り難いことでしかないだろう。丁寧に1人1人見て回り、角度や抱き方の指導、上手く吸えてなければ赤子の頭をがしっと乳房に押し付け、半ば強引に吸わせる。もちろん、私も毎回それをされたわけだが、このとき息を止めてみても頭の中で強烈な戦争映画を想像してみてもだめで、途中からは切れるくらい口の中を強く噛んでみたり、空いてる手で太ももを思いきり抓ってみたりしたが、全身にほとばしるとてつもない不快感には適わず、何をやっても結局だめだった。

 「子を産めば母性が芽生えて授乳が幸せになる」という実母の言葉ばかりが頭をよぎり、私はどうしてこんなにダメなのか、皆当たり前にやれているのに「量が出ない」とか以前の問題で苦しんでいる私には母性がないのか……? と悩んだ。

 乳首を吸わせている間の周りの母親たちの幸せそうな顔や、授乳室に流れる優しい雰囲気(1を参照)が、さらに追い打ちをかけ、いっそちぎれて流血してもいいから、「大丈夫な乳首」になってくれ……!! と、夜な夜な個室のベッドでめそめそと泣いたものだった。

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小出 愛

1981年生まれ、学生時代から10年以上スポーツ一本、卒業後はスポーツトレーナーとして第一線を志すも、いろいろあってパチ屋店員に。そこで旦那と出会い、結婚、2016年に第一子出産。プロレスは知らないけど猪木が好き。ママ友ヒエラルキーには入りません。

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