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「運命の相手」との不倫で、人生から逃げる男と女『アフェア 情事の行方』

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 対するアリソンの生い立ち、家族の背景はさらに複雑でのっぴきならない状態にあった。アリソンは大都会NYを遠くに見ながら、漁師町のモントークで育った。成績優秀で、一時期はメディカルスクールに入ることを希望したが、結局は都会に出ることも医師になることもなく地元で看護師になった。彼女が都会に出て自分を変える機会をなぜみすみす逃せたのかは夫コールを見ると理解できる。学やキャリアはないが、地元で長く続く牧場を家族経営する、地元ジョック(体育会系)たちのボス的存在である夫の庇護の元で暮らすには、学歴に裏付けされたキャリアも都会的洗練も邪魔でしかない。

 しかし二人の関係は幼子を失った事故によって打ち砕かれる。アリソンは小児科に勤める看護師だ。医療者は、わが子のなんてことのない症状を針小棒大にとらえ大騒ぎする人たちを普段から相手する経験から、いざ自分の家族に何らかの病変が起きても過剰に冷静になろうと努めるきらいがある。こんな程度のことで大騒ぎしてはいけない、なぜなら自分の危惧を反証する可能性など無数にあるのだから。アリソンも同じ轍を踏んでしまい、海でおぼれているところを救出されたわが子を、安静な様子であるからと病院につれていくことなく自宅に連れ帰ってしまった。そして彼女は自分を責め続けることになる。看護師としての能力にそれなりに自負もあった。それなのになぜわが子の異変を見逃してしまったのか。夫からも容赦なく苛まれ、出勤した職場でもわが子と同じ年頃の患児たちの病に苦しむ様子をしょっちゅう目にしなければならない。結果、彼女は看護師を辞め、ウェイトレスになった。アメリカ社会においてウェイトレスとは学も職歴もない、どんな人間でもなれる最低賃金の職業とされている。一時期は広い世界に羽ばたく可能性を持っていた女性が自暴自棄になり今や田舎町のウェイトレスに甘んじているのだ。

 そんなときノアとアリソンは出会った。2人は乗り越えなければならないのに見て見ぬふりしてきたそれぞれの人生の課題にいま現在ぶち当たっている。ノアは「自立」、アリソンは「自己実現」。しかし家族との「愛」という名目のもとに2人はその課題から逃げ続けてきた。そして再び人生の岐路に立ち、それぞれの課題が頭をもたげてきたにもかかわらず、2人はまたもや「愛」を盾にそこから逃げようとしている。

 『アフェア 情事の行方』はケーブルTV局Showtimeのオリジナルドラマで、ゴールデングローブやエミー賞で多くの賞を獲得している大変評価の高いシリーズだ。この作品は主人公ノアがひき逃げ事件の容疑者と見なされ、彼と現在は彼の妻になっているらしいアリソンに対して取り調べが行われるところから始まる。そのため、2人の同一の過去に関する微妙に食い違う供述がそれぞれ映像として我々に示される趣向となっている……がそんな仕掛けはどうでもよくなってくるくらい、この物語の現代人の人生を描く手つきは見事なのだ。

 現在、WOWOWで放送されているシーズン2ではノアとアリソンが捨てた、元妻と元夫も新たな視点人物に加わった。ヘレンは、思春期に入りコントロールの利かなくなった上の子供たち2人と、まだ幼い下の子供たち2人を一つにまとめる統率ぶりが垣間見え、彼女の母親としての有能さがわかる。コールは離婚と同時に経営の行き詰っていた牧場をやむなく手放し、多額の借金を返済するため地元でタクシー運転手になった。人生の多くを突然に失った彼はその欠落から目をそらすかのように黙々と仕事にいそしむ。深夜、街を流すタクシーの車内から光と喧騒に満ちた街の風景を見ていると、何のセリフもなくとも彼の孤独がひしひしとこちらにも伝わってくる。これだけでノアとアリソンの唯一無二に見えた「運命の出会い」が相対化され、途端に俗物的で色あせたものに見えてくる。

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