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若いだけが女優じゃない!おばあちゃんが大活躍する海外映画・ドラマの世界

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映画のおばあちゃん

 おばあちゃん俳優の起用という点では日本やヨーロッパはハリウッドよりまだマシで、年配の女性をヒロインにした映画もよく見受けられます。日本では70過ぎても活躍している女優がけっこういて、例えば樹木希林は今でもいろいろな映画で重要な役を演じ、昨年のお正月の広告では『ハムレット』のオフィーリアに扮して話題になりました。ヨーロッパでは、カトリーヌ・ドヌーヴがインタビューで発言しているように、年配の女性に関する映画がアメリカより盛んに作られています。

ジャンヌ・モロー『クロワッサンで朝食を』公式サイトより

ジャンヌ・モロー『クロワッサンで朝食を』公式サイトより

 フランスはおばあちゃん俳優の宝庫で、73歳のドヌーヴはもちろん、80代半ばで『クロワッサンで朝食を』(2012)に主演したジャンヌ・モローや、『92歳のパリジェンヌ』(2015)に主演し、尊厳死を求める92歳のヒロイン、マドレーヌを演じたマルト・ヴィラロンガなどがいます。イギリスには007シリーズのM役や『あなたを抱きしめる日まで』(2013)などでおなじみのジュディ・デンチ、70歳過ぎても引っ張りだこのヘレン・ミレン、現在『ミス・シェパードをお手本に』が日本で公開中のマギー・スミスがいます。

マリアンネ・ゼーゲブレヒト『バチカンで逢いましょう』公式サイトより

マリアンネ・ゼーゲブレヒト『バチカンで逢いましょう』公式サイトより

 ドイツでは『バグダッド・カフェ』(1987)で有名なマリアンネ・ゼーゲブレヒトが『バチカンで逢いましょう』(2012)で主演をつとめており、ドイツからカナダに移住した移民で、同郷人のローマ教皇に会おうとイタリアに旅するおばあちゃんをエネルギッシュに演じました。ちょっと変わったところでは、スイス映画『マルタのやさしい刺繍』(2006)があります。保守的な田舎に住む80歳のおばあちゃんマルタ(シュテファニー・グラーザー)が、友人たちの助けを受けて、若い頃の夢だったがあきらめていた可愛い刺繍ランジェリーの店をオープンさせようとする……という物語です。

 おばあちゃんに冷たいハリウッドですが、少しは光明も見えます。2015年にスーザン・サランドン主演で『マダム・メドラー おせっかいは幸せの始まり』という映画が作られました。この作品はサランドン演じる初老の寡婦マーニーが娘の住むロサンゼルスに引っ越し、そこで新しい体験をするという物語です。いつもはコワモテの役が多いJ・K・シモンズが心優しい退職警官を演じ、マーニーと熟年の恋に落ちる展開もあります。日本では公開されませんでしたが、本当ならこのような映画を日本でも見られるようにしてほしいものです。

テレビドラマのおばあちゃん

 英語圏のコンテンツで忘れてはならないのがテレビドラマです。英米のドラマは何シーズンもかけて様々な人々をじっくり描くので、ご老人もたくさん登場します。今回はとくにイチオシのおばあちゃんドラマ2本を紹介します。

左:マギー・スミス、右:ペネロープ・ウィルトン『ダウントン・アビー』公式サイトより

左:マギー・スミス、右:ペネロープ・ウィルトン『ダウントン・アビー』公式サイトより

 ひとつめはイギリスのITV制作のドラマ『ダウントン・アビー』です。1910年代から20年代にかけて、ヨークシャの屋敷を舞台にグランサム伯爵一家とその使用人たちの人生を描いた時代ものです。イギリスでは既に放送終了していますが、日本では現在、第5シリーズが放送中なので、ネタバレしないよう気をつけて説明したいと思います。

 この作品に出てくるおばあちゃんといえば先代グランサム伯爵夫人ヴァイオレット(マギー・スミス)です。ヴァイオレットはこれぞ貴族という女性で、頑固で保守的ですが頭の回転が速く、家族思いです。孫娘メアリーの夫の母で、中流階級出身で現代的なもう1人のおばあちゃん、イザベル(ペネロープ・ウィルトン)とはライバル関係です。

 この作品の良いところは、おばあちゃん2人の「祖母」としての面以外についても丁寧な描写があるところです。ありきたりな作品では、おばあちゃんというのは子どもや孫のことだけを心配している「祖母」で他の側面を持っていないか、あるいは偏屈でグロテスクな老婆として描かれるか、どちらかになりがちですが、この2人はそうではありません。ヴァイオレットもイザベルも子や孫を気遣いますが、一方で若者に負けず恋愛や社交をします。2人とも慈善事業にいろいろ関わっていますし、ヴァイオレットはロシアから亡命してきた昔の恋人と劇的に再会し、イザベルは何度か求婚されます。最初ケンカばかりしていた2人はいつしか親友になり、イザベルが求婚されているのを見たヴァイオレットが、親友がいなくなる不安にかられて寂しさを露わにするという、おばあちゃん百合とも言えるような細やかな愛情表現の場面まであります。この後のお話は日本未放送だと思うのでヒミツにしておきますが、今、このドラマを見ている方々はどうぞおばあちゃん2人の友情の熱い展開に注目してください。この2人が座ってお茶を飲んでいるだけで場面に味が出ます。

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北村紗衣

北海道士別市出身。東京大学で学士号・修士号取得後、キングズ・カレッジ・ロンドンでPhDを取得。武蔵大学人文学部英語英米文化学科専任講師。専門はシェイクスピア・舞台芸術史・フェミニスト批評。

twitter:@Cristoforou

ブログ:Commentarius Saevus

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