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妄想・幻覚もひとつの「現実」である・統合失調症患者の「現実」とゆらぎ――卯月妙子『人間仮免中』『人間仮免中つづき』

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『人間仮免中』(イースト・プレス)『人間仮免中つづき』(小学館)

『人間仮免中』(イースト・プレス)『人間仮免中つづき』(小学館)

 初めて自殺未遂をしたのは中学3年生。20歳で結婚し出産するも、ほどなく夫の会社が倒産。借金返済のためにホステス、ストリップ嬢、そしてAV女優として働き、スカトロ系などの過激なAVなどに出演したことでカルト的人気を獲得。代表作は、排泄物や吐瀉物やミミズを食べる『ウンゲロミミズ』。しかしその後、夫が投身自殺し、幼少期から悩まされてきた統合失調症が悪化。自傷に他傷、・殺人欲求などの症状により精神病院に入退院を繰り返し、新宿のストリップ劇場では、舞台の上で喉を掻っ切り公開自殺未遂――壮絶な経歴を持つ漫画家・卯月妙子によるコミックエッセイが2012年刊行の『人間仮免中』(イースト・プレス)とその続編で昨年12月に刊行された『人間仮免中つづき』(小学館)です。

 『人間仮免中』は、「統合失調症」を患う作者と、内縁の夫・ボビーとの生活をユーモラスに描いた漫画ですが、その内容は、統合失調症の陽性症状である幻覚や妄想に、躁状態での歩道橋からの飛び降りによる顔面崩壊……と波乱万丈。しかしこの漫画は、いわゆる「闘病記」や「統合失調症の体験記」といったものではありません。読み手の側からどんなに異様に見えたとしても、これは「卯月妙子の生活」そのものを描いた作品なのです。

 作者は生活のなかで、さまざまな幻覚・妄想を体験します。電車に乗れば、車内の中吊り広告に刷られた「卯月妙子死刑確定」「卯月妙子転落の人生を暴く!!」などという週刊誌の見出しが目に飛び込んできますし、突如として「自分にはカリスマ占い師の素質がある。だからなんでも分かるのだ」という妄想に取り憑かれたりもします。そして投身自殺をはかったあと、入院先で彼女が突入していく妄想の世界も壮絶です。作者を殺す場面をネット配信しようとたくらむ終花看護師(おそらく作者の妄想上の人物)と病院の職員たちの「ボビーとのエッチな合成写真を作って、実名と一緒に公開しよう」「エキサイトに献花台の無料レンタルサイトがあるから(ありません)、卯月妙子のサイトも作ってやろう」という会話。病院内でいきなり卯月妙子のAV上映会が始まったり、同意書を書かされたボビーも病院で一緒に殺されることになったり、謎の占い師が卯月妙子の死ぬまでの運勢を生中継で占いにきたり……とにかく因果関係のめちゃくちゃな、狂った世界が彼女を取り巻いているのです。そんななかで彼女は殺されることになっているわけですから、当然ものすごく恐ろしい。読んでいると、無性に不安な気持ちを掻き立てられます。しかし同時に、どこか吉田戦車の不条理ギャグ漫画のような滑稽さもあって、読者は混乱の渦に巻き込まれたまま、ページをめくることになるのです。

 作者の見ている世界は、いわゆる「正常な」人びとが日常的に見ているものとは大きく異なっています。常識にのっとって考えれば、彼女の見ている世界は「妄想」や「幻覚」――つまり「誤った考え」や「誤った知覚」であると言えるでしょう。しかし彼女にとって、それらはひとつの「現実」なのです。他人と、それも大多数の人間とは別の「現実」を生きること。そして自分にとっての「現実」が、ともに生きる他人には受け入れられないのだとしたら、それはとても苦しいことのように思われます。

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餅井アンナ

1993年生まれ。ライター。messyでは家族やジェンダー、生きづらさについての問題を取り上げた文学作品のレビューなどを書いています。食と性のミニコミ誌『食に淫する』制作。

twitter:@shokuniinsuru

http://shokuniinsuru.tumblr.com/

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