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母親として、アーティストとしてのビヨンセとアデル グラミー賞での多様な政治的メッセージ

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母親であることに苦しんできたアデル

 グラミー賞における最も重要な賞、年間最優秀アルバム賞にはアデルの『25』が選ばれた。アデル本人はビヨンセの『レモネード』が選ばれると思っていたようで、受賞スピーチはビヨンセに向けられた。

 アデルは5年前にグラミー賞を受賞した時、自分もまだ気付いていなかったが妊娠していたと言う。妊娠は人生最大の喜びであったが、同時に苦しみの始まりでもあった。

「妊娠と母親になることを通して、私は “私自身” をたくさん無くしました。以来苦しみ、今もママであることに苦しんでいます。けれど今夜の受賞で元に戻り、私の一部が戻って来ました」

 ここから先は自分のことではなく、「ビヨンセは私の人生のアーティスト」であり、ビヨンセがアルバムの中でパートナーの浮気も含め、「いつもは見せない、別の側面を見せてくれた」ことに感謝し、「全てのアーティストがあなたを憧憬しています、あなたは私たちの光なのです」「力を与えてくれます」「愛しています」と、ビヨンセへの最大級の賛辞を述べた。

 アデルも妊娠時にはすでにスターであり、子育てに経済的な心配はなかったはずだ。しかしアーティストとしての活動に大きな制約ができ、自身の内面や生活環境の変化は楽曲を作るという創作作業にも大きな影響を及ぼしたのだろう。職業の種類や地位とは関係なく、仕事を持つ母親なら誰もが経験することである。

 それはビヨンセも同じ。観客席でこのスピーチを聞いていたビヨンセは思わず涙をこぼし、アデルに向って「I love you.」と返した。

アーティストの使命とは?

 グラミー賞はアメリカのみならず、世界中に配信される音楽の祭典だ。最大の目的は今回、冒頭に登場したラティーナ・シンガーのジェニファー・ロペスが語ったように「世界共通の言語、音楽」を誰もが楽しみ、共有することだ。だからこそ音楽は強力なメッセージを発するツールにもなる。

 今回、期待されていたような真っ向からのアンチ・トランプ・パフォーマンスは少なかった。しかし平和、連帯、平等を訴えると同時に、それらを発信することがアーティストの務めであるというメッセージがあった。

 ジェニファー・ロペスはノーベル賞、ピューリッツァー賞を受賞し、代表作『青い眼が欲しい』で知られる著名な黒人女性小説家トニ・モリソンの言葉を引用した。

「今は正にアーティストが仕事をするべき時です。失望する時間も自己憐憫の余地も無く、沈黙する必要も恐れる余地もありません。私たちは言葉を発します。文明はそうして癒されるのです」

 今年のグラミー賞の司会者ジェームス・コーデンは映画、テレビ、舞台で活躍するイギリス人の俳優/コメディアンだ。この日はユーモアたっぷりのラップもこなした。

「思いっきり楽しんでよ、なぜってこれがベストだし。だってトランプ大統領なんだよ、次に何がくるのか分かんないもんね/人種も、どこで生まれたかも、顔の色も関係なく、ボクらは今夜ここに座ってる/音楽はボクらのモノのって、ずっと覚えておいて。皆いっしょにいることで、ボクらはサバイバルできるのさ」

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堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:http://www.nybct.com/

ブログ:ハーレム・ジャーナル

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