「ストーカー的だとしても、それ以外にどういう道があるの?」(枡野)
枡野 う~ん……(構成担当Fの問いには答えず)。あの小谷野さんに伺いたいのは、切通さんってお子さんに会えたじゃないですか? 切通さんはあんまり会いたいとは言っていなかったの。会いたい会いたいと言ってなかったことで、かえって女性側が会わせようと思ったんですか?
小谷野 や、なんか自然に会ったんじゃないですか。
枡野 自然にかあ~。どうなんだろう、僕は、ほんとにほったらかしにしてたら、今ごろ会えてたんじゃないかっていう気がしないでもないんですけど……。
小谷野 でも枡野さん、それこそさっき言ったみたいに自分から会いにいったら、生きる目標を失ったんじゃない?
枡野 そんなことはないですよ。や、そこで、会ったら会ったで、毎月毎月会えてたらね、あぁめんどくさいなぁ今月はめんどくさいなぁと思う日があったと思いますが、でも会いたかったですね。
構成担当F あの、枡野さん、もう一度聞きますが、その待ってる状態こそがストーカーなのではないかというのが小谷野さんの指摘だったと思うのですが、それについてどう思われているのですか?
枡野 う~ん……。
小谷野 だから枡野さんは、さっき言ったことと矛盾したことを言っていて、さっきは執着をやめたら自分はゼロになってしまうと……。
枡野 や! そうですよ。でもちょっと待ってください。子どもに会えてたって、1回会えたことですべてが終わるわけじゃなくて。僕の望みは、違う関係性で会えたり、人生が続いていくことを望んでいるのだから、そこは執着があるんですね。
小谷野 違う関係性っていうのはどういうことですか?
枡野 だから父親としては遺伝子的にしかつながってないけども、あのなんだろう、父親がいるってことを認知していただき……認知……認知ってなんだろう……。
小谷野 や、それは認知してるじゃないですか(笑)。
枡野 してるのかなぁ?
小谷野 あっ、それが確認できないってことですか?
枡野 わかんないんだもん、全然。や、だからむしろ、むこうがね、「もうほっといてくれ」っていうなら、まだそれでも僕は納得なんですよ。
構成担当F でも、「むこうがほっといてくれというまではつきまとうよ」っていうのはまさにストーカーの論理です。ストーカーする人たちの常套句が、「俺のこと嫌いだったら嫌いっていってくれよ!」で、枡野さんの今の言葉には、悪いけどちょっと物凄く似てる感じを覚えました。
枡野 うんうんうん……。
構成担当F 枡野さんは自分は追いかけてないし、無理やり会いに行くこともしない、どこかで待ち伏せするようなこともしない、会いに来るまで待ってるんだっていうのが、何度も言うけど、より深いストーカー的になってしまうというか……ストーカー的な愛というか……。
枡野 それは抗えませんね。でもストーカー的であるとしてもね、それ以外にどういう道があるかわからないですね、僕には。
構成担当F そのひとつの道はまさに、小谷野さんが宿題としていわれた、元奥さんの視点から書いてみるとかじゃないですか? 枡野さんは物書きで、作品を発表できる場があるなら、もしかして枡野さんが納得いってない作品であっても、その作品はひとつの答えになるかもしれないし、すごくいい作品になる可能性はあると僕は思います。
枡野 まあね……。
構成担当F 枡野さんっていつも「自分は嘘を書きたくない」って、自分が気にいったものしか出さないじゃないじゃないですか。そうじゃないんだ、それじゃだめなんだってことを、小谷野さんはこの2時間ずっと言われてたと思うんですが、枡野さんはどうなんですか?
枡野 どうなのかなぁ。たださっき小谷野さんがおっしゃったことは、矛盾はしないと思いますけどね。執着っていうのは子供への執着だけど、1回会ってすべて解決する問題じゃなくて。気が抜けるかもしれませんけれど。会ってみたらこんなもんだったのかって。その気持ちを味わいたいですね。だって味わってないんだから。想像でしかなくて。でもそこから一歩も進めないんですよ、僕は。
小谷野 でも会ってみたら……もっと酷いことになるかもしれない。
枡野 う~ん……。でもそれはわかんないじゃないですか、想像してみたって。
小谷野 じゃ、会ってみたらどうですか?
枡野 そうなっちゃいますか? 植本一子さんに「私も一緒に行くから会いに行きましょうよ。私、写真撮りますから」って言われたんだけど……今は保留にしてるんですけどね。
小谷野 (歌舞伎役者の)市川猿之助がね、今の猿之助じゃなくて前の猿之助の息子が香川照之で、子どもの頃に別れて、香川は大学……東大出て会いにいったら、「私に子どもはいない」と言われて、泣きながら帰ってきたんですよ。まぁそういうこともある。
枡野 そういうのも当然考えてます。
小谷野 まぁ香川は、今は仲良くなったんでいいんですけど。
枡野 そういう人にも会いました。18歳のときに父親に会いにいったら拒絶されたって人にも会いましたし。だからそういうこともあるでしょう。
構成担当F 枡野さんはずっと20年間自分のことを書き続けていてますよね。でも今日、小谷野さんが私小説作法的にいろいろ枡野さんの人生を質問していくと、枡野さんの記憶は時勢がばらばらだったり曖昧だったりして、まだまだ発掘されてない部分がたっぷりあるのかと思いました。それは物書きとして、ちょっと羨ましい気がしました。枡野さん、まだまだ伸びしろがあるじゃないかと。
「売れてないとストーカーは止まないんです」(小谷野)
枡野 ただ僕としては、小谷野さんからの質問は、お話しする前に想像していたものとはまるで違いましたね。だから小谷野さんのご指摘……ずっと僕に質問してくださるんだけど、なんのためにする質問なんだろうと思っていて、なにか気をつかって言ってないことがいっぱいあるんじゃないかと……。
構成担当F いや、僕はすごくわかりました。というか、勉強になりました。ストーカーの本質は追いかけることではなくて待ち続けること、万全の態勢で待っていて、自分が待っていることに疑いがないんだってこと、それが怖いんだって指摘はとても勉強になりました。
枡野 そのこと(待ち続けること)は、どういう風に迷惑なんですか?
構成担当F たとえば、今多く問題になっている、いわゆる「地下アイドル」とかへのストーカーやネットストカーでいうと、彼らはアイドルへ一方的にアドバイスという名目の悪口や誹謗中傷を送り続けるんです。そしてそれをやめないんですよ。アイドル側が「どうやったらやめてくれますか?」っていったら、「ボクの言うことをきちんとわかってくれて、聞き入れてくれたらやめる」と。
枡野 僕、そんなことしてませんけど。
構成担当F それは、枡野さんは息子さんを追いかけてはいない。けれど、息子さんのほうから会いに来てくれるまでずーっと待ってるとアピールし続ける本や文章を書き続けて、枡野書店もひらいている。それは、わからないけれど、もしかしたらですけど、息子さんを圧迫してしまってるかもしれない。さらにには、小谷野さんが言われたように、その執着こそが枡野さん自身を一番苦しめている……。
枡野 まぁそうですね。ただそのことを言ったことはなかったじゃないですか。枡野書店をやってる理由とかも。聞かれたから言ったまでで。自分からアピールはしてませんよ。
構成担当F でも対談で自ら発言されたわけですし、それ以上に、枡野さんの心の中ではそう思われていたわけですよね?
枡野 ああ、僕自身の中の問題ですね。僕自身の気持ちとしてはそういう気持ちでいることは確かだから、仏教的にいうと、自分の魂が報われないという話なんですね、きっとね。でも報われる必要はあるんでしょうか、人は。