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陶酔させ、誰も不快にしない「正しさ」の洗練――映画『お嬢さん』 西森路代×ハン・トンヒョン

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ⓒ 2016 CJ E&M CORPORATION, MOHO FILM, YONG FILM ALL RIGHTS RESERVED

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 2015年6月に公開され、賞賛の声を浴びた『マッドマックス 怒りのデスロード』。messyでは、社会学者のハン・トンヒョンさんとライターの西森路代さんに、『マッドマックス』の素晴らしさ、特にフェミニズムの視点で、二度に分けてお話いただきました。

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そして2017年3月に、パク・チャヌク監督の新作『お嬢さん』が公開されました。すでに西森さんが本サイトでレビューしているように、『お嬢さん』は『マッドマックス』同様にフェミニズムの視点で饒舌に語るに値する素晴らしい作品です。そこで再び、ハンさんと西森さんにお集まりいただき、『お嬢さん』の魅力について語り合っていただきました。実は『お嬢さん』は、フェミニズムの視点だけでなく、植民地支配への批判、エロなど、見る人によってその魅力が異なる、多層的で巧妙な作品だったのです……。

※本記事はネタバレを含みます。

巧妙に設定された複数の“偽装”

ハン 西森さんはmessyの連載で、『お嬢さん』を「フェミニズムそのもの」と書かれていました。感想として異論はありませんし、ある意味まさにそのとおりだと思います。だから今回よびかけられたこの対談は、2015年にmessyで行った『マッドマックス』対談での延長線上のものなのだろうと私は受け止めています。そうした流れもあってか、この映画を観ているとき、西森さんのことを思い出していたんですよね。詐欺師の藤原伯爵(ハ・ジョンウ)が「チンコを守れてよかった」って台詞を吐くシーンとか、「ああ、これは西森さん、絶対好きだな」って思って。

西森 それじゃあ私が、そこだけに喜んでるみたいな……(笑)。あのシーンは、女性たちに復讐されているのにもかかわらず、当の男性は何が起きているかわかっていない。その上、情けないセリフを吐いている、というシーンですよね。それをハ・ジョンウに言わせるのかと思うと、つい笑ってしまいました。ハンさんは『お嬢さん』をどう見られました?

ハン この映画って、結構複雑な作品だと思うんですよ。まず西森さんが書いていたように、何よりもまずジェンダー支配を乗り越えるフェミニズム的な要素がありますよね。それ以外にも、植民地時代の日本と朝鮮という民族的な支配‐被支配の関係、そして階層という、3つの要素がクロスしている映画なんだと思います。

西森 どういうことですか?

ハン この映画では男性がとても情けなく描かれています。でもそれは、単に「男はダメ」で済ませられる話じゃないんですよ。それ以上に「“親日派の”男はダメ」っていう話なんです。そして登場人物にそれぞれ違った“偽装”がある。

まず完全に日本人になりきって生きている上月(チョ・ジヌン)と、朝鮮人なんだけど詐欺師として今は日本人になりすましている藤原伯爵がいる。上月は植民地支配を内面化しているという意味での民族的な偽装、藤原伯爵はお金のために民族と身分を偽っているということで、それぞれ偽装のレベルが違います。さらにこの背景として、同じ朝鮮人でも、上月は上流階級に属していて、藤原伯爵は朝鮮半島の中でも差別される側にある済州島出身の貧しい男という違いもあります。

秀子には、メタなレベルの偽装があって、日本人の役だけど、演じているのは韓国人のキム・ミニなんですね。たぶんパク・チャヌクはあえてキム・ミニに秀子を演じさせている。これは、「男性に抑圧されて自分らしく生きられていない」という役柄上のことに、日本による朝鮮支配を重ねているんだと思うのですが、みんなひとつずつ偽装のレベルがずれているんですよ。そんななかで唯一、詐欺に加わっているとはいえ、何も偽らず、偽装せずにそのままの姿で生きているのがスッキ。だからスッキが救世主になりえたのではないかと思っています。

西森 私にはわからないところなんだけど、植民地時代には、上月や藤原伯爵みたいな、「偽りたい」という欲望をもつ男性がいたということですか?

ハン 国が奪われている状況で上に行くには日本人になりきらないといけないじゃないですか。そうでもしないと生き残れない。というか、自発的にそうさせるのが植民地という状況。植民地時代の親日派って、単に日本に協力しましたって話じゃなくて、あの状況下で生き抜くためにはとくに男だとそうせざるを得ない、そうなってしまうってことなんです。逆に言うと女性はそういう構造からも「排除」されていたということなのだけど。

西森 上月が春画の収拾をしてるのを変態って片付けることに違和感を覚えてたんだけど、あれは日本の文化に染まろうとしていたともとれるわけですね。

ハン そう、単なる趣味じゃなくて、身も心も日本人になりきろうとしていた。これは監督自身も話していますが、文化的な侵略のもとでの「内なる植民地支配」の表現です。

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西森路代

ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクショ ン、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、 TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

twitter:@mijiyooon

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