社会

ユナイテッド航空:在米日本人の「もやもや感」~アジア人流血事件は人種差別か否か

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アジア系へのステレオタイプ

 こうした差別行為は「アジア系は大人しい」「何をしても文句を言わない」というステレオタイプに基づいている。それは同時に「アジア系は犯罪を犯さない」という思い込みにも繋がる。以下はそれを物語る筆者の体験談だ。

 ある小さな店で買物をした際、筆者がまだレジ前にいるにもかかわらず、店員の女性がレジの中の大量の紙幣を取り出して数え始めた。カウンター越しに引ったくることが出来る距離だった。筆者がアジア系の女性でなければ(逆に言えば黒人男性であれば)、絶対に行わない行為だ。

 筆者が住むハーレムは黒人地区だが、タクシーの運転手は強盗を懸念して若い黒人男性客を避けたがる。代わりに筆者が歩道を歩いているだけで頻繁にクラクションを鳴らす。キャットコーリング(女性への冷やかし)ではなく、「タクシー強盗などやらない、安全な」アジア系女性に乗って欲しいのだ。

 他にもあるがこの辺で止めておこう。アメリカではそれぞれの人種にステレオタイプがあり、日常生活に反映される。

 念のため書き加えておくと、「人種差別の対象となっているマイノリティは差別を行わない」という理論は正しくない。差別意識は誰もが持つものであり、どのグループも差別意識を他のグループに対して抱く。例えば黒人は白人からの差別の対象ではあるが「アメリカ人」としてのアイデンティティを強く持ち、したがって移民であるヒスパニックやアジア系は下位に属すると考える者がいる。逆に社会的・経済的に成功した移民の中には「長年アメリカにいながら未だに成功できないのはなぜだ」と黒人を誹る者がいる。こうした差別意識とステレオタイプを防ぐのは子供の頃からの教育以外にないと筆者は考える。

 ちなみに事件当初はダオ氏をまったく擁護せず、謝罪もしなかったユナイテッドCEOのムニョスはメキシコからの移民夫婦のもと、9人兄弟のひとりとしてカリフォルニア州で生まれている。たとえ優秀であってもメキシコ移民の息子が航空会社のCEOに登り詰めるまでには相当な人種差別を体験しているはずだ。それでもムニョスは大企業CEOとしてマジョリティ側の視点で振る舞った。ムニョスCEOが今回の件を個人的にどう考えているかは不明だが、マイノリティも社会的立場が変われば行動も変わることの例である。

 ダオ氏を引き摺り出した3人の空港警察官は全員がラティーノもしくは黒人に見える。彼らは上からの指示に従って、単にダオ氏を「強制排除」しただけなのか。その際、ダオ氏がアジア系であったために「強制」の度合いが上がってしまったのか否か。イエスの場合、それは意識的だったのか、それとも無意識下だったのか。もしくは今回の件、人種差別の要素は全く無く、すべては偶然が悪いほうにのみ傾いてしまった結果だったのか。いずれにせよ、3人の警察官はすでに停職処分となっている。

 人種差別はかくも複雑、かつ根深い問題なのである。

(堂本かおる)

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堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:http://www.nybct.com/

ブログ:ハーレム・ジャーナル

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