――各委員の方々より、今回の委員会、提言内容などご発言を賜りたいと存じます。まずは河合委員よりお願いします。
河合 まずはなぜ、この委員会を引き受けたのかというところから……直接的には山口弁護士から頼まれたということなんですが、中身に賛同してという以前に、信用出来る人でないと出来ないというのもありますので、その人脈上、山口さんからの依頼ということと、それから業界の方々と面談をして、本気で出演者の人権を守るために改善していこうという意思があるということを確認いたしましたので、協力したいということでございます。
中身でなんの役に立てるのかということですが、自己紹介も兼ねて、私の専門の話を簡単にお話しさせていただきますと、まずは犯罪学者であるということです。まずは性犯罪と風俗産業、ポルノとの関係は犯罪率が多くなってきます。そこらへんについての知識があるということ、それから被害者の視点を研究しているということ。「日本被害者学会」の理事もしていますが、実際に性犯罪被害者のサポートもやったことがあります。そういった被害者の視点も知っているということは、この委員会での色々な活動の役に立つだろうと考えております。
業界の健全化ときいた時に、日本の常識として業界団体をきっちり作って、中で守りましょうね、とやって、そこに警察の方のOBが入って連携するという話ですが、そこに入ってこない悪い連中がいる、というのが普通の構図なんですね。その中で業界団体と警察がある程度連絡を取りながらやるということですが、実はこのアダルトビデオ業界はその常識が全然あてはまらないんです。たとえば「バッキー事件」などの完全に犯罪者である人たちがアダルトビデオ業界のふりをした……というのは置いておいて、いわゆる無修正ビデオという非合法のところが相当大きい。
普通、業界団体に入らないところはちょっとのはずなんですが、これは相当大きくて、ビデオの撮影本数的には少ないのかもしれませんが、儲けという市場的にいうと、ひょっとしたら合法よりも大きいという噂もある。もちろん確かめようがないんですが。そういう非常に大きなものが隣にある中でアダルトビデオ業界の中で健全化をやっていくという特徴をしっかり捉えていないといけないということで。
そうしますと「適正AV」で出演者の人権を配慮したアダルトビデオの団体を作り、そこがどのようなメーカーがプロダクションかを明確にすることの何がメリットかというと、自分からアダルトビデオに出たいと志願してくる人が間違って無修正の方に行かない。これは相当大事なことだと思っております。普通は自分の業界の中だけ綺麗にするんですけど、これは波及効果として、相当大きな特徴だと思います。
それに関連して、無修正の件を話しますと……スカウトの問題が云々といわれておりますが、そもそもスカウトよりも志願者のほうが多い時代になっているということもしっかり知っておく必要があるんですけれども、1番ひどい事例というのは、ヤミ金の多重債務の人を非合法のAVに出させられるというのが、典型的な1番ひどい被害者で。そのへんの話が完全にこれまでは抜けちゃってるんです。だから、1番ひどい人を助けないでどうするんだ、というのが私の立場から言いたいことであり、そこに対しても今回我々がすることはカバーできるんじゃないかと思っております。
AV出演者の自己決定権の安全を確保するには
山口 弁護士の山口です。私がなぜここにいるかというと、もちろん「表現の自由」というのもあるんですけれども、もうひとつ、私は「自己決定権」の問題についての専門家という側面もあるんですが、もともと私は消費者弁護士です。悪徳商法や消費者被害、詐欺に合った人たちを救済することをしておりますし、カルト問題もやってきているんです。弁護士として14年間くらいは基本的には消費者とか弱者の立場に立って……表向きは色々契約書を作らされているんですよ、それをどうやって打破してその人の権利を守るかっていう活動をやってきたわけです。どういったことかというと、自己決定権を守るということなんです。なので、私がお話するのは自己決定権をどうやって確保していくかという専門家の話だと思ってください。
まず、AV出演者の自己決定権の安全が確保されないという状況は業界にとっても深刻な問題です。つまり、非常に重大な人権侵害に温床になりかねないという点において、放置することはできません。それから現状、AV業界を擁護するということは政治家にとって非常にリスクが大きい問題になっています。なぜかというと、出演者の人権の問題というのが存在するわけで、つまりAV出演強要などの問題があるかもしれないところを政治家が擁護するというのは、自分自身の政治生命にとってリスクが大きいことになります。どういうことかというと、政治家が味方できない、味方してもらえないということは公権力による規制に対して対抗する手段がないということです。
だから、結局目標としては、国会において意見を持ち出せるように政治家が安心して関与できるようにならないと生き残りは難しいという問題意識を持っていただきたいと思います。逆、政治家を味方につければ、男女共同参画の審議会とか国際機関が何を言おうともきっちりと対抗していくことが可能です。有効な対抗力を持つことが可能になるわけです。
次にAV出演者の自己決定権を確保すればどうすればいいかですが、契約書にサインしたとか口頭で説明したというだけでは、到底充分ではないと私は考えます。なぜかというと、AV出演というのは、人生で大きな影響を与えかねない重大な決断です。それから情報量の格差です。メーカーやプロダクションと出演する人の間では情報量の圧倒的な格差があります。それから強者・弱者の関係というのも明らかに存在するわけです。そういう観点からすると、情報提供任務や内容を説明することが重要になっていて、これを確保しない限り自己決定権が保護されているとはいえないと思います。
まず、AV出演者が出演するかどうかを判断する材料は事前に提供されなくてはいけません。具体的にはシナリオや販売期間などについて、相手方の理解力に応じての情報提供や説明を行うということです。それから、情報を口頭で伝えるだけではなく、書面やデータなどで提供すること、その書類やデータには日付を入れること。それから提供された情報について、メーカーやプロダクションの関係者から干渉されず、他人に相談するなどして契約を提携するかについて充分に検討するだけの時間を与えるということです。それから、書類を回収しないことと、報告書を保存すること。次に出演契約の内容としては、シナリオや台本の具体的な内容、販売期間、配信期間を明記するということは最低限必要だと思います。それから、違約金や損害賠償と出演拒否を躊躇させる情報というのは設けるべきではありません。それから撮影中に中止を求めることはできることは明記するべきだと思います。これに対して損害などは保険で対応すべきであって、出演者に負担させるべきではありません。それから、契約の内容を変更する場合は口頭ではなくて、双方が書面で行うことと時間を与えること。が必要でないかと思います。
AV業界関係者に対する教育・啓発も必要だと思います。経営者だけが理解しているというのではなく、現場の人にも理解することが大事だと思うので、教育や啓発が必要です。ヒューマンライツナウのような批判的な団体も含めて、様々な立場からの意見を聞くことは重要だと考えています。