連載

「エロ」は「反応描写」がなければ成立しない/『愛してるぜベイべ★★』槙ようこ

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愛してるぜベイべ

『愛してるぜベイべ★★』りぼんマスコットコミックス1巻/槙ようこ/集英社

 私が『りぼん』を読みふけっていたのは小学生だった90年代のことで、本連載でも90年代の作品を取り上げてきたのだが、今回は00年代の作品を紹介したい。5歳女児(叔母の子)を育てるハメになった男子高校生の目線で、子どもを取り巻く社会や親の姿が描かれていく、槙ようこの『愛してるぜベイべ★★』(2002~2005年)だ。アニメ化もされたし、その時期の『りぼん』におけるヒット作だった。

イケメン男子高校生のイクメン奮闘

 主人公は、男子高校生・片倉結平(かたくら・きっぺい)。主人公が男であることは、『りぼん』ではさほど珍しいわけじゃない。ただ、90年代の『りぼん』に登場するヒーロー(主人公であろうがなかろうが)は、どちらかといえば硬派なタイプが多く、軽薄そうに見えても芯は固いとか、とりあえず女遊びだけはしないってことになっていた(印象)。おバカキャラは三枚目扱いになりがちだし、『ご近所物語』のツトムはサル顔だけどモテる設定ながら実果子に一途な童貞だった。ところが今回ヒーローとして君臨する結平は、おそらく、童貞ではない。

 積極的に女子を口説くわけではないが、見目が良くて明るく優しくムードメイカーな人気者なので、同じ高校の可愛い女子たちは「きっぺ~!」と軽いノリで寄ってきてキスなどする。第一話冒頭で結平は、授業をさぼって女子と戯れている。現場を捕えた教師からは「おまえはちょっと目を離せば あっちでいちゃいちゃ こっちでちやほや」と叱咤されるほど、あちこちで同じような行為を重ねている様子だ。

 一昔前の性教育観からすれば、貞操観念の崩壊したケシカラン世界観ではあるのだけれど、イヤらしくないから不思議なのだが、よくよく観察していくと、男側の興奮や、女側の頬を赤らめるなど“感じてる”表情を描かないからだと気付いた。種村有菜の対極である。結平は他の女生徒とも二人きりになるシーンでは制服の下に手を入れておっぱいを揉んだりもしている。男女とも表情や息遣いに変化はない。だからそれが、行為自体は過激だとしても「エロ」の文脈で刺激が強いかというと違うのだ。「エロ描写」というのは、「快感反応を示している描写」であって、性行為や性器そのものの絵があったとしても「エロ」ではない。ゆえに、『愛してるぜベイベ★★』はまったくエロくはないのであった。

 少女マンガ的なのは、結平が肉食系なわけじゃなくて、女子が向こうから寄ってくるから何となく相手しているだけ、という受け身なところ。とにかくモテモテの結平は従来のヒーローたちに比べるとチャラいが、そのぶん柔軟性抜群の性格で人あたりもいい。とても取っつきやすい人物である。

 そんな結平の前に、本作のヒロイン・5歳児の「坂下ゆずゆ」が現れたことで、物語は動き出す。ゆずゆは、結平の母の妹・都の娘で、結平には従妹にあたる。都は夫の死に打ちのめされて蒸発、残されたゆずゆは片倉家で暮らすことになった。そして母と姉・鈴子の命令により、結平がゆずゆの面倒を見ることに決定! トンデモ過ぎる決定だ。ちなみに片倉家は祖父母・父母・長女(鈴子)・長男(結平)・次男(皐)の7人家族で、大人はたくさんいる。にもかかわらず結平が育児担当者に任命されたのは、勉強も部活もバイトもしておらずヒマで、女の子とチャラチャラ遊んでばかりいるから。圧倒的に女性勢力が強い片倉家で、結平は特に鈴子に対して頭が上がらない。鈴子は社会人で独身、喫煙者、朝は不機嫌、美人だが特定の彼氏はいないようである。リビングでスパーッとタバコを吸うシーンがたびたび登場するのが、ちょっとびっくりする。

 結平は早起きしてゆずゆの弁当を作ったり、幼稚園の送り迎えをしたり(おかげで遅刻常習)、お絵描きを褒めたり、一緒に寝たり、公園に行ったり、夏休みはプールで泳ぎの特訓をしたり……、もちろん最初からうまくこなせるはずもなかったが、健気なゆずゆに結平はメロメロになり、ゆずゆも結平に懐いていく。ほんとうの父子ではないけれど、お互いを愛おしく思う絆が出来ていく。

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中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー

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