家族

ワンオペ密室育児を美談にし、母性愛賛美を強化することは問題だ

【この記事のキーワード】
ムーニーから、はじめて子育てするママヘ贈る歌。 「moms don’t cry」(song by 植村花菜)

Youtubeより/ムーニーから、はじめて子育てするママヘ贈る歌。 「moms don’t cry」(song by 植村花菜)

おむつや生理用品、ペット用品などを販売する大手企業ユニ・チャームが商品HPで公開した動画が物議を醸した。

ユニ・チャームのおむつ「ムーニー」の商品PRである2分1秒の動画は、産んだばかりの赤ちゃんを世話する一人の母親の日常を追ったもの。冒頭、産院で出産を終えて笑顔で我が子を抱く母親は、不意に表れた暗い穴の中を覗き込む。退院して親子三人で暮らす家に戻ると、昼夜問わず赤ちゃんと向き合う日々が始まった。大声で泣きっぱなしの我が子がなぜ泣いているのかわからず不安そうな顔の母親、夜泣きの声に起こされて何度も目を覚ます母親、赤ちゃんを抱っこヒモで抱えながら両手に重い買い物袋をさげて歩く近所の道、母と子は2人きりだ。泣いてばかりの赤ちゃん、散らかっていく部屋、眠れず休めない毎日に、どんどん母親が疲弊していく様子が伝わる。しかし最後、我が子が母の指を握り、笑顔を見せることで母親も明るい表情に変わっていく。「その時間が、いつか宝物になる。」というコピーで動画は締め括られる。

この動画に対して、たくさんの人々がSNSで自分の意見を表明している。「ワンオペ育児賛美にしか見えない」「かつての自分を思い出してつらくなった」と批判的な見方から、「これがリアルならば自分も頑張ろうと励まされる母親もいるはず」と肯定的な見方まで、反応はグラデーションだ。私は動画を視聴して「怖くなった」のち、「母性愛だけに子育てを委ねる社会ではいけない」という思いを強くした。

メリーズやパンパースなど他のおむつの会社も似たような動画を制作、公開している。Youtubeではたくさんの公式動画を閲覧することができる。SNSでは、パンパースの動画を今回のムーニー動画と比較して称賛する声も相次いだ。その動画は、母親と赤ちゃんの密室育児ではなく、父親、きょうだいなど他の家族はもちろんのこと、遠くに暮らす祖父母や親戚、かかりつけ医、公共交通機関の運転手、通行人など様々な人が子育てにかかわる様子を描くものだ。ベビーカーを押す母親を赤の他人が助けるし、ガードマンや道路工事の男たちも笑顔で見守る。社会全体が子育てを応援している、という雰囲気なのだ。理想的ではあるが、日本を舞台に同じような動画を制作してもしらじらしくなるだろう。

さて、件のムーニー動画を視聴して何が怖くなったのかというと、自分自身が産後の一年間、肉体的にも精神的にも追い詰められていたことを否応なく思い出させられたからであり、そのうえ一人親による子殺しが描かれた映画『子宮に沈める』を連想したからである。たった一人で幼い姉弟を育て、充分な収入を得るだけの仕事もできず(養育費の受け取りもない)追い詰められていくシングルマザーは、やがて子供たちを閉じ込め、殺す。2010年に発生した大阪二児放置死事件をモチーフにした作品だ。

「自己責任」では虐待事件を防げない。大阪二児放置死事件をモデルにした密室映画
母性神話を崩壊させよ! 『子宮に沈める』監督・緒方貴臣×武田砂鉄/対談レポート

1 2 3

ヒポポ照子

東京で働くお母さんのひとり。大きなカバを見るのが好きです。

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

増補 母性愛神話の罠 (こころの科学叢書)