子供の行動に理由がないとは言わないが、人間がみんなそうなように、ある程度は気まぐれではないだろうか。しかも大人以上に、心身の成長著しい時期なだけに日々何をし出すかわからない生き物であり、昨日までこうだったのにある日からいきなりこうなる、みたいな変化が普通だ。また数分単位で固執するものが変わったり、その時期によって〇〇が好き、〇〇が嫌いといったようなサイクルがくるくる回る。
だから、上記項目について「そういうときもある」という程度でチェックしていくと、意外にも多く当てはまるものではないか。この記事には“これらの項目に当てはまる行為が日常生活のうち〇〇%以上を占めてたら愛情不足”といった具体的な表記がないため、だいたいの子供は「やってたことある」程度で見れば、少なくとも2つや3つは当てはまるだろう。
子供が寂しさを感じる=愛情不足の危険サイン、と安易に結びつけることもどうかと思う。自分が幼少の頃を思い返してみるとどうだろうか? 「寂しい」という思いを一定の時期感じていた、という記憶があるのは珍しくないのではないだろうか? そのときに自分の親たちがどんな風に子育てしていたのかは知らないが、子供は猛スピードで進化を遂げているのだから日々の中で常に「満足感」「安定感」を子供側が得ていることのほうが珍しいような気もする。ただ生きているだけで、不安や喜びや自分でも把握しきれないほどたくさんの種類の感情が常に湧き上がってくるものではないだろうか?
少なくとも、私は自分の幼少時代の心理を思い返すと「こういう気持ちだった!」と綺麗に整理できる思い出はあまりない(周りに愛情不足だとか言われた記憶もないが)。これらの理由から、上の7つの項目のうちどれをとっても、成長の過程では? と思えてならないのだ。嘘をついたり、他人のものを隠したりするのは誉められた行為ではないにしろ、小さな心が抱える葛藤の証のような気もするし、何でも自分でする、他人に甘えるなどは「自立」というプラス要素としても捉えられるだろう。無表情になったり、黒い絵を描いたりというのも、毎日ずっと続くなら心配にもなるだろうが、「そういうときもある/あった」程度ならば過剰に問題視すべきではないように思う。気まぐれに、その時々で色々なことをやってみたくなるものだろう。子供にとっても、自由にあちこち行き来してみたい心をいちいち動機づけされてしまうのは傍迷惑な話だろう。
愛情不足に陥るとこんな子になっちゃいますよ…!?
こういった項目に当てはまる子供=愛情不足だと結びつけた後には、親への脅しが待っている、というのがこの手の記事の定番だ。今回は「そんな子供たちに待ち受ける弊害」を紹介している。
・愛情遮断症候群
乳児期に十分な愛情を感じられないまま育った子供には、身体や知能、精神や性格面に何らかの障害が出ることがあります。親からの愛情がないストレスから、安心して眠ることもできないと睡眠中に分泌されるはずの成長ホルモンの分泌が足りず、またネグレクト(育児放棄)により適切な食事などを受けていないなどの理由で身体的症状として成長・発達の遅れや停滞が見られると考えられています。
上記の部分はサイト上で太字で強調されているが、これはあくまで育児放棄を行った末のことを指しているにも関わらず、先に述べた「7つの項目」と紐付けてゴリ押ししているのが厄介だ。上記項目のうちに、「子供に暴力をふるう、食事を与えない、清潔にさせない、眠らせない、室内に閉じ込める、子供の訴えを無視する」等の虐待要素はあっただろうか? そもそもこの病気を説明する上で<十分な愛情>とは何か基準を明確にする必要があると思うのだが、そこはまるっきり省かれている。記事全体の文脈から、読者が「指しゃぶり→愛情不足→愛情遮断症候群発症」と誤解してしまいかねないのではないだろうか。
・いい子症候群
親からの愛情を受けたいがために親の期待に応えるべく「いい子」に振舞おうとしてしまうことです。自分の気持ちを親のために抑制し、親に対して自分の意見を言えないだけでなく、「家でだけいい子」になり外では…と二つの顔をもつケースも少なくありません。
テレビドラマなどで、家庭に何らかの問題がある生徒がこうした設定を付与されがちだ。実際にその状況に陥っている子供は非常に気の毒であるが、いかにも問題児の代表格のように認知されていることが、その子供のつらさを増幅させているようにも思える。これもまた、「子供が嘘をついた!」から直結して紹介されていることにただただ違和感。
また、愛情不足によりこういった〇〇症候群となった子供はその後どうなるのかについて、「アダルトチルドレンになる」や「恋愛が困難になる」などの弊害も紹介されている。いやいやいくらなんでもぶっ飛びすぎじゃないか……? そもそも子供が取る日常の些細な行動から、不穏な未来を予測させるのは、親たちに対する「強迫行為」、いや、脅迫メッセージとしか思えないのだ。
ただでさえ乳幼児を育てるにあたって、健康な身体づくりをサポートするのだってあれこれ試行錯誤なのに、心理的な発達を見守る親としては毎日「これで良いのか?」「うちの子変じゃないか?」と頭を悩ませるものだ。私も初めての子育てに戸惑いばかりで、子供が奇行とも取れる行動(=大人が想像しない動きや見慣れない動き)をすると不安を覚えて、つい後でネットで原因を探ろうとしてしまうことがある。けれど、ネットに正しい解答はおそらくない。逆に、こうしたサイトに辿りついて、不安を煽られていくばかりだ。
そんな親たちの不安を煽っているという自覚があるのか、記事の最後には「どうすればこんなことにならないか」という“ありがたい”アドバイスが記されている。
(1)子供が欲する愛情を与える
子供が欲する愛情とは、自分の存在を肯定してくれているということをいつも感じて安心することです。
(2)過干渉・過保護にならないように
子供が親の過干渉や過保護に慣れてしまうと、自立心が育たず、自発的な行動ではなく褒められるための「偽りの行動」ばかりするようになります。
(3)ゲームやテレビは子供に愛情不足と感じさせる
ゲームやテレビは親子が直接顔を合わせて現実体験を共有する時間を減らしてしまい、お互いの気持ちを伝えたり感じたりすることができないので、親からの愛情も子供に伝わりにくいのです。
さんざん不安を煽っておいて、アドバイスはなんともシンプルだ。このサイトに辿りついて最後まで記事を読もうとする親なら、すでに知っていることばかりだと思う。真面目にやろうとしているから不安になるのであり、真面目にやろとしている以上はそれくらいのことはなるべく実践を試みているはずだからである。つまり常識的な「正しい子供との向き合い方」。
実践を試みてはいるけれども、それでも計画通りに進まないのが育児。想定外のことに慌てたりイラついたり落ち込んだりするから、「正しい子供との向き合い方」ができなくて、真面目な親はそのたびに不安を覚え、悩み、もがいているのであり、こうしたアドバイスはただの<確認事項>にしかならないだろう。育児は親が一定の環境で一方的にできるものではない。様々な状況下で常に子供の「心」を相手にする(向き合う)以上、イメージする正解があってもなかなか遂行できないものだ。