社会

なぜ「若いうちに産んだほうがいいよ」と言ってはいけないか/『文科省/高校「妊活」教材の嘘』

【この記事のキーワード】
Photo by miszpinay from Flickr

Photo by miszpinay from Flickr

卵子の老化。妊活。不妊治療。卵子凍結保存。ここ数年でホットになった妊娠・出産をめぐるトピックだ。きっかけは2012623日に放送されたNHKスペシャル『産みたいのに産めない~卵子老化の衝撃~』。番組でライトが当たったのは30代後半~40代のいわゆる高齢出産に該当する世代の女性たちだった。肉体的には健康であるがなかなか妊娠しない、おかしいと思い産婦人科を受診して初めて「卵子が“老化”しているため妊娠の可能性が低い」「女性の卵子は年齢とともに年を重ね、35歳の女性が出産できる可能性は20代の半分」という事実を知り悲嘆に暮れる、というものだ。女性たちが無知によって「産みたいのに産めない」状況に陥らないよう、啓発する内容。一方で、「卵子が若いうちに産めない」のは社会的要因が複雑に絡み合っており、一概に女性の無知が原因とは言えないことも指摘されてきた。

62日に厚生労働省が発表した平成28年の人口動態統計(概数)によれば、出生数は前年比28698人減の976979人で過去最少、初の100万人割れとなってしまった。女性が生涯に産む子供の推定人数を示す合計特殊出生率は1.44で、前年を下回り2年ぶりのマイナス。厚労省は「20代後半~30代前半の出生率が減った」とコメントしている。出産世代の女性人口は減少の一途。これ以上の少子高齢社会化を防ぐ対策が急務だということは分かる。労働人口が減り、経済規模が縮小し、社会保障制度も維持できなくなると予想されているからだ。であれば日本は「産みやすい社会」ひいては「子育てしやすい社会」に変革していかなければならないのだが、その課題解消の目途も立たないのに「とりあえず若者に産ませよう」という思惑ばかりが先走っている印象を受ける。

20158月、文科省が発行した高校保健体育の副教材『健康な生活を送るために(平成27年度版)』は、少子化対策を盛り込んだものだったが、そこには前述の“思惑”が凝縮されていた。この問題を徹底的に検証したのが、『文科省/高校「妊活」教材の嘘』(論創社)だ。かねてよりSNS等で同教材の問題を指摘してきた「高校保健・副教材の使用中止・回収を求める会」の活動記録である。

妊活

『文科省/高校 「妊活」教材の嘘』論創社

件の副教材は、妊娠・出産や性教育に特化したものではない。交通安全、生活習慣病、喫煙や飲酒、薬物乱用などに合わせて、性感染症の防止や妊娠・出産に関連するページがもうけられている一冊だ。しかしこの副教材に掲載されている「女性の妊娠のしやすさの年齢による変化」グラフは改ざんされたデータであり、妊娠・出産に関するページには他にも複数の間違いや不適切な記述が見られた。本書『文科省/高校「妊活」教材の嘘』は、「その分野の専門家たちが関わっていながら、なぜ改ざんや間違いは見過ごされたのか?」検証し、経緯と内容を明らかにした一冊だ。同時に、この副教材を現政権(第二次安倍政権)が文科省と連携し「早めの結婚・妊娠・出産を仕向けるよう、関連のページを強化した」プロパガンダであると見て警鐘を鳴らしている。

国の「産ませる」という政策的な意図と、学術・専門家団体の権力への欲望が結び合うとき、「科学的知識」に何が起こり、それは社会の中でどのように機能するのか。専門家たちによって権威付けられた「科学的知識」が正しいのか歪んでいるのか、それを誰が確認できるのか。教育現場の教員や生徒たち、そして市民はいかにより適切な情報にアクセスできるのか。これらについて考えるための材料を提示することが、本書のもう一つの目的である。(まえがきより)

1 2 3

ヒポポ照子

東京で働くお母さんのひとり。大きなカバを見るのが好きです。

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

文科省/高校 「妊活」教材の嘘