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誰かに喜んでもらいたいけれど、他者からの評価は一切気にならない、という両軸/利重剛×枡野浩一【4】

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利重さんと枡野さん

利重さんと枡野さん

 「不幸を見せびらかしてるようにみえる」――と言われることのある枡野さん。前回の対談相手である評論家で作家の小谷野敦さんからも「仏教をやれば?」とすすめられ、「そこまで追い詰められてるように思われたのか……」と悩みます。

 そんな枡野さんを、お釈迦様の出家の話からSM話までを繰り広げて慰める、利重さん。「愛は負けるけど、親切は勝つ」「親切にすることって自分にとってだいじなんじゃないかな」――の第4回です。

「仏教をやらなければいけないほど『僕』は辛そうなのか」(枡野)

枡野 僕、このあいだ対談した小谷野敦さん【注】という評論家の方からは「枡野さんは仏教をやればいいんじゃないか」と言われてしまって。そこまで追い詰められているように思われたのか……と(笑)。

利重 はい。

枡野 仏教をやらなければいけないほど、この本(『愛のことはもう仕方ない』)の主人公である「僕」は辛そうなのかなぁと思ってしまったんです。

利重 いや……。っていうか、「お釈迦様みたいになればいいんじゃねえの?」ってことなんじゃないですか?

枡野 きっと、自分にこだわりを持つことをもう少し緩めたらどうか、ということなんじゃないかとは思ってるんですけど……

利重 いやいやいや! こだわりは! だってお釈迦様は一国一城の主というか、国王の息子ですよね? ほんとは自分が王様にならなければなかったのに、「生きるってなんだろう? 死ぬってなんだろう?」って考えて、出家したわけじゃないですか。それで、そんなこと考えてるうちに国同士が戦争になったりして、本当は自分が治めなければならない国の人たちがいっぱい死んでるわけじゃないですか。
言ってみれば無責任なわけですよね。だから、それだけ無責任なことしてても「俺、これを考えたいんだよ! 生きるってわかんないんだよ!」って。それで考えて考えて、菩提樹の下に座ってたりしたわけじゃないですか、何年も。なにやってんだ、アイツ!? と言われてね。ほんとは国を治めなきゃならないのに、と。そういうヤツだからこそ、人にやさしくなれたんじゃないかと思うんですよ。

枡野 なるほどねえ……。

利重 俺はそう思うんですよ! そうじゃない人の言葉だったら、こっちにそんなに入ってこない気がするんですよね。それだけ自分も無責任なことしたり、言ってみりゃ逃げたりした結果、でも「考えたんだ!」と。「すっごく考えたんだ!!」と。考えて考えて、結果、なにがわかったかといえば、「自分がしたら嫌なことを人にしてはいけない」……みたいなことを言うわけですよねえ。それはなんだろう、それだけの経験があったからこそ、言えた言葉なんじゃないかなあと……。だから、たぶん仏教と同じで、自分が今なぜこうしてるのか、何を欲しているのかとかをもっと突き詰めろ――みたいなことなんじゃないですか?

枡野 う~~ん……。

利重 そうすると、ものすごくありがたい言葉が、枡野さんの中から……

枡野 出てくるんでしょうか……。

利重 ものすごい勢いで。そして、みんな、枡野さんの後ろを着いていっちゃって。

枡野 僕と名字が同じの「枡野俊明さん」というお坊さんがいて。禅の本などをいっぱい出してる。親戚でもなんでもないんですけど。でも、そのお坊さんだと誤解して僕にサインを求めた人がいて。

利重 あははは!(笑)

枡野 「別人ですよ」って言ったら、がっかりした顔されちゃって。黙ってサインすれば良かったんですけど、つい言っちゃったんです、「別人です」って。でもなんか、そんな風に自分がなれるのかなぁって思っちゃいますねえ。

利重 …………。

枡野 逆に、変わらないところはありますか、利重さんは? 若い頃から。

利重 う~ん、あるんだと思うんですけどねえ。なんでしょう、あんまり難しいことを考えなくなってますねえ。だから、ほとんど変わっちゃったんだと思いますね。

枡野 利重さんの本の推薦文を、(女優の)ともさかりえさんが書いてらしていて。≪夢のようなことを言ってくれる大人はたくさんいたけれど、それを本当に叶えてくれた大人はりじゅさんだけでした。≫――って。本を読んでも伝わってきますけど、ちゃんと約束は守る感じとか、「愛は負けても親切は勝つ」みたいなニュアンスとか、これは(作家の)カート・ヴォネガット【注】とかも書いてることなんですけど……

利重 あ、そうなんですか。

枡野 同じことを利重さんも本に書かれていて。親切だと思うんですよ、利重さんて。存在的に。それは昔から変わってないんじゃないかなって。昔の本を読んでも今度の本を読んでも思いましたけど。

利重 親切ねえ。あの、あんまりよくわかんないですねえ。自分への見方が変わってくれていて、でも自分はそんなに変わってないのかもしれないし。自分でもわかんなくなっちゃってるんですよねえ。人に親切にするのも、なんだろう、やっぱり人が苦しむのを僕はあまり見たくないから親切にすると思うし。うちの嫁さんも似たところがあるんですけど、ほんとは自分がすごく親切にされたいんだよね。だから自分がされたいことを人にしてるっていう気がします。それで相手の人が喜ぶと、まるで自分がされたことのように自分も嬉しいというような。だからどっかで相手の人が、さっきの子どもの話じゃないけど、自分からの主人公になってるとか、相手の視点で見てるとか。そういうようなところがあるんじゃないかと思うんですよね。だからなんだろう、親切にすることって自分にとって大事だったんじゃないかな。必要だった。

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枡野浩一

歌人。1968年東京生まれ。小説『ショートソング』(集英社文庫)ほか著書多数。短歌代表作が高校の国語教科書(明治書院)に掲載中。阿佐ヶ谷「枡野書店」店主。二村ヒトシさんとのニコニコ動画番組『男らしくナイト』(第1回は9/24夜)、中村うさぎさんとのトーク企画『ゆさぶりおしゃべり』(第1回は10/7夜)など、最新情報はツイッター【@toiimasunomo 】で。

@toiimasunomo

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