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なぜ「精液の噴射」をほのめかすCMが作り続けられるのか

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武田砂鉄

武田砂鉄/論男時評(月刊更新)

 サントリーの新商品ビール「頂(いただき)」のPR動画が炎上した。『絶頂うまい出張』と題された動画は、女性に「二人っきりになっちゃいましたね」「肉汁いっぱい出ました」などと言わせた後に、「コックゥ〜ん!しちゃった……」と言わせて終わる。

 一昨年、広瀬すずが出演した『明星一平ちゃん 夜店の焼そば』のCMを思い出す。広瀬が「かけさせて、マヨビーム」と切り出し、「ぶちゅーー」とのかけ声と共にマヨネーズをかける。最後に、広瀬に「全部出たとー?」と言わせる。批判を受けたこのCMは、「全部出たとー?」を「好きな人おると?」に変更して放送された。

 この2つのCMは「精液の噴射」を暗喩してみせた、との共通項を持つわけだが、この手の、(言葉としては矛盾するけれど)表立った裏テーマを推し進めたがる面々は、その裏テーマについて、もしかして「面白い」とか思っちゃっているのだろうか。ちっとも面白くない。

 サントリーの広報は「動画に関して企画意図が適切に伝わる内容か事前にチェックをしておりましたが、今回のようなお客様のご意見は想定しておりませんでした」と答えている(ハフィントン・ポスト)。では、その企画意図とは何だったのか。この新商品を「ご当地グルメや方言と合わせて全国のお客様にお伝えする意図で制作したもの」だと言うのだが、ご当地グルメや方言と合わせてお伝えするためには、二人きりになったり、コックゥ〜んしたりしなければならないのだろうか。

 宮城県、仙台市、JR東日本などが作成した観光キャンペーンのPR動画では、タレントの壇蜜がいかにもな口調で、「宮城、いっちゃう?」「ぷっくり膨らんだ、ず・ん・だ」「肉汁トロットロ、牛のし・た」「え、おかわり? もう〜、欲しがりなんですから」と語りかけるなど、性的な暗喩をいくつも盛り込ませた。宮城県の村井嘉浩知事は定例記者会見で、とりわけ問題視する内容ではなく、むしろこのように賛否を呼んでアクセス数が伸びることはいいことだとし、「私としては面白いと思っている」と結論付けた。ちっとも面白くない。

 こういう取り組みに手厳しく意見すると、必ず「おちおち下ネタも言えない窮屈な世の中になってきた」との見解が漏れてくるのだが、より公共性の高い場で、女性を使いながら「精液の噴射」をほのめかして面白がる、というのは、世の寛容・不寛容とはまったく別物と考えるべきだろう。

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武田砂鉄

ライター。1982年生まれ。東京都出身。大学卒業後、出版社勤務を経て、2014年秋よりフリー。著書に『紋切型社会──言葉で固まる現代を解きほぐす』(朝日出版社、2015年、第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞受賞)、『芸能人寛容論──テレビの中のわだかまり』がある。2016年、第9回(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞を受賞。「文學界」「Quick Japan」「SPA!」「VERY」「SPUR」「暮しの手帖」などで連載を持ち、インタヴュー・書籍構成なども手がける。

@takedasatetsu

http://www.t-satetsu.com/

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