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“子なしブーム”と政府の「北風」的少子化対策

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 ところで、子なしブームの立役者は、「子なし」肯定派だけではなかった。

 NHKアナウンサーの小野文惠さんは、不妊治療を特集した番組のなかで「50歳ぐらいまでに産めばいいのかと思っているうちに手遅れになりました」「20代、30代で、もうちょっと、今もうちょっと仕事頑張らないとっていうときに産めるような社会でもなかったですよね」(『ニュース深読み』2016.2.13)と思いつめた表情でコメントしている。

 同じくNHKアナウンサーの有働由美子さんも、若いうちに子どもを産まなかったことについて、「とんでもない間違いをしたのではないか。産む可能性、機能があるのに、無駄にしたんじゃないかと。気が狂ったように泣いたりして病院通いした」(『あさイチ』2016.5.18)と語り、同年代の女性たちの共感を呼んだ。

 小野さんも有働さんも、産休・育休をとることでキャリアに傷がつくことを恐れ、また退社をして、育児が落ち着いた頃にフリーランスで復帰するといった選択には躊躇したのだろう。ごく普通に働く女性たちもまた、彼女たちと同じように出産をためらっている。

 先月、「子なし人生」について「後悔していない」派と「後悔している」派が本音を吐露した2016年の出生数と合計特殊出生率(1人の女性が生涯に産む子どもの数)が発表された。出生数は97万6979人で、1899年に統計をとり始めてから初めて100万人を割り込み、合計特殊出生率は1.44と前年を0.01ポイント下回った。ここしばらく微増傾向にあった合計特殊出生率がマイナスになるのは2年ぶりのことだ。

 産む人の数も減る一方なので、今後、出生数が回復することは難しい。しかし、出生率はこれ以上下がらないだろう。というのも、国による脅しのような少子化対策がそれなりに効果を発揮しそうな気配がある。

 日本の少子化は、1970年代にはすでに始まっていて、政府が対策を講じ始めた頃にはすでに手遅れだった。その対策も見当違いだったのだが、ここにきて政府は、「女性自身に、産む性としての自覚が足りない」という発想のもと、新たな少子化対策に乗り出した。象徴的なのが、頓挫した「女性手帳」の配布や、“「卵子の老化」キャンペーン”である。

 少子化対策を寓話『北風と太陽』に例えるならば、産みやすく育てやすい社会を作ることが「太陽」的対策で、「早くしないと卵子が老化して産めなくなる!」と脅すのは「北風」的対策である。

 たしかに、年をとるほど妊娠しづらくなるということを知らなかったために、子どもを持てなかったという女性はいる(“キャンペーン”の際に使用されていた「妊娠しやすさ」のグラフが改ざんされていたという問題もあった)。しかし、なぜ彼女たちが妊娠出産を先延ばしにしたかといえば、産みやすく育てやすい環境が整っていなかったからである。そう考えると、やはり「太陽」的対策が必要だということになるのだが、残念ながら「北風」的対策が、迷える女性たちの背中をジワジワと押しているというのが現実である。

(1)国立社会保障・人口問題研究所『日本の将来推計人口――2011~2060年』表Ⅲ-3-6「中位仮定に基づくコーホート指標」

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田中ひかる

1970年東京生まれ。著書に『月経と犯罪――女性犯罪論の真偽を問う』(批評社)、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史――タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房)など。

田中ひかるのウェブサイト

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子の無い人生