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NY地下鉄:ベビーカーに親切、でも車両内でフライドチキンにかぶりつくニューヨーカーの生態と、アメリカの「社会意識」

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地下鉄でフライドチキンを食べ、物乞いに恵み、ベビーカーを厭わないニューヨーカー:地下鉄はアメリカ社会の縮図の画像1

Photo by James Loesch from Flickr

 ニューヨークの地下鉄で、今度こそ「食べる」ことが禁止となるかもしれない。地下鉄を管理する交通局のトップが禁止するべきだと提案しているのだ。理由は先月、朝の通勤ラッシュ時に線路で起こった火事だ。火災そのものは小規模だったが、複数の路線に大幅な遅滞が出て大混乱となった。

 火事の原因は線路に捨てられていた大量のゴミ。車両が走る時に車輪とレールが摩擦して飛び散る火花がゴミに引火したのだった。ニューヨークの地下鉄ではおなじみの線路周辺に散らばるゴミの多くは、たとえばマクドナルドのテイクアウトの紙袋など、乗客がプラットホームや車両内で食べる食品から出るものだ。

 そこで交通局の局長は、今は合法なホームや車両内での「食べる」行為を禁止したいと発言。ところがニューヨーク市長が瞬時に反発した。いわく「乗客に地下鉄で食べるなというのはフェアじゃない」。

 ニューヨークの地下鉄は、これまでにも何度か「飲食禁止」の提案が出されたが、そのたびに「忙しくてゆっくり食事する暇もない」ニューヨーカーからの反対意見が出てそのままになっている。結果、マクドナルドだけでなく、テイクアウトの脂っぽい中華料理やフライドチキン、自宅から持参したタッパに入ったパスタやサラダなど、ニューヨーカーは今も平気で食べている。

 実際、仕事を掛け持ちしていたり、働きながら大学に通ったりする人も多く、事情は理解する。しかし、モノによっては周囲の乗客は匂いに参る。当選する前は地下鉄通勤もしていた市長もそれはよく分かっているはずだが、秋に再選挙を控えており、食事禁止令を支持して票を失いたくないのだ。

 ちなみに地下鉄で「飲む」行為は2年前に禁止された。コーラやアイスコーヒーなどを地下鉄の床にこぼす乗客が少なくなく、糖分で床がベタベタになる。掃除も大変だし、100年以上も前に作られた古い地下鉄ゆえに大量のネズミを駆逐することがどうしても出来ず、ベタベタがネズミの繁殖に貢献もしてしまうというのが理由だった。

地下鉄はパフォーマンス会場

 最近、交通局が熱心に取り締まっているのが、車両内でのダンス・パフォーマンスだ。ニューヨークの地下鉄はつり革の代わりに手すり用のポールが何本もあり、それを使ってアクロバティックなポールダンスを披露してチップを稼ぐダンサーが大量に出現した。ラジカセを持参し、大音量を響かせ、狭いスペースで見事に踊る。ニューヨーカーは観るに値するものには惜しまずチップを弾む。

 他にもパーカッション持ち込みで演奏する3人組、マリアッチと呼ばれるソンブレロを被ってギター演奏で優雅に歌うメキシコ人トリオ、ホームレス男性のゴスペル隊などニューヨークの地下鉄にはパフォーマーが溢れている。

 しかし物品の販売も含め、地下鉄での金銭の授受は一切禁止されている。そこでパフォーマーへの違反チケット(罰金)が盛んに切られるようになり、パフォーマンスを見掛ける回数がめっきり減ってしまった。残念なことこの上ない。

 地下鉄での物乞いも違法だが、これはまったく減らない。いかにも野宿者な風体の人、PTSDを患う退役軍人であるという人(退役軍人の苦難は社会問題となっている)、そして幼い子供を連れ、「この子を食べさせるために恵んでください」という若い女性たち。以前、この女性たちは友人知人間で子供を貸し借りしているプロの物乞いであることが報じられたが、今もまだ頑張っている。そして乗客たちは、彼女たちに少額の紙幣を渡し続けている。報道を知らない人もいるかと思うが、目の前の女性は本当に困窮しているのかもしれないではないか。なにより子供を目の前にすれば同情心も湧くではないか。

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堂本かおる

ニューヨーク在住のフリーランスライター。米国およびNYのブラックカルチャー、マイノリティ文化、移民、教育、犯罪など社会事情専門。

サイト:http://www.nybct.com/

ブログ:ハーレム・ジャーナル

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