法律のいう「協力・扶助」とは?
実際に、夫婦に求められる「協力・扶助」とはどのようなものでしょうか。
稼いでいる人は、相手に生活費を渡すことが「協力」になります。わかりやすいのは妻が専業主婦の場合ですね。夫だけが生活費を支払う義務を負うわけです。
妻がパートなどで少しだけ収入がある場合、給料を生活費に入れるべきかどうかは問題にはなりえます。夫にも小遣いがあるように、 妻もある程度の額、自由に使えるお金はあるべきでしょう。妻が自由に使えるお金を決して多くはないパート代から捻出している場合は、パート代を共同生活費に入れなくてはならないわけではない、と考えます。
一方、収入がある別居中の夫が妻に対して生活費を渡していないとなると、この夫は扶助義務を果たしていないとみなされます。では家事を主に引き受ける側はどうでしょうか。どのようなときに協力義務を果たしていないと言われるのでしょうか。
ときどき、夫側から「妻が家事をしないから離婚したい」と相談されることがあります。具体的に聞くと「部屋が汚い」「食事が買ってきた総菜ばかり」などがあがります。しかし、実際にそれで離婚が認められるかというとかなり厳しいと私は考えています。
大雑把に考えると、「炊事」「掃除」とやるべき家事は大した量ではないと思われてしまいますが、実際に細かく数え上げていくとその量は膨大です(以前『AERA』が共働きの家事育児100タスク表を作成していました)。その中から、一部の家事をやらない、あるいは正当な理由があってできない場合、離婚の理由にはならないのです。
また「部屋が汚い」というのは感じ方にかなり個人差があります。相談時に部屋の写真を持ってきてもらったところ、弁護士が「うわー、うちの方がきたない……」と絶句したという笑い話があるくらいです。忙しいとなかなか掃除まで手が回らないですよね。埃では死なないとよく母親に言われて育ちましたしね(言い訳)。
ただ、他の理由とともに夫が家事をしないことを理由に妻が請求した離婚が認められた例はあるようです。妻が流産しても夫は慰めることもせず、さらに看護学校に通っている妻が、その間、夫に子どもの面倒を見るように頼んでも、子どもを泣かせてばかり。遊びに連れて行くように頼むと「生活費を減らす」などと言い出し、夫は家事や育児のつらさに対して共感を示さず、家事分担しないという例です(東京高等裁判所平成29年6月28日判決)。最終的に別居して3年5カ月が経った頃に、離婚が認められました。同居中、妻には収入がなかったようですが、学校に通っていたために夫にも家事育児をする必要があったとされた点で、「収入がなければ家事の負担を一手に負うべき」と法律上みなされているわけではないことがわかります。
では実際に収入がどれくらいあればどれくらい家事をやらなくていいか、というと……明確な線引はおそらくありません。少なくとも「収入2:家事8」のようにあるべき分担を計算して離婚を認めた、あるいは認めない例を私は見たことがありません。家事の負担を正確に計算するのは難しそうですし、育児だと毎日決まったルーティーンで行えるわけではありません。昨日は早く寝てくれたのに、今日は午前4時に突然泣き出して起こされることもありますよね……。