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「女の幻想に縛られない」を掲げるPOLAのビューティーディレクターはどんな仕事か

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 化粧品メーカのポーラ(POLA)が、ビューティディレクター(販売員、以下BD)募集に際して公開したリクルートCMが評判を呼んだ。

 「この国には、幻の女性が住んでいる。世間が、そして私自身がつくった幻想」というナレーション。オフィスビルの廊下に佇み、浮かない表情で窓の外を眺める会社員女性、企業受付嬢の女性、子供を抱いた女性、座敷で男性にお酌をして回る女性、ショーウィンドウの洋服を見つめるリクルートスーツ姿の女性が、次々と映し出されていく。

 ナレーションは「世間が、そして私自身が作った幻想」「誰かの『そうあるべき』が重なって、いつの間にか、私が、私の鎖になりそうになる」と続く。登場する女性たちの表情や佇まいからは、“自らの置かれた不自由な環境に葛藤を抱えながらも必死で戦っている”ことが窺える。最後は「けれど、縛るな、縛られるな。翼はなくとも、私は飛びたてる。これからだ、私」と、それでも彼女たちは不自由に縛られずに生きることを諦めてはいないことが示される――。

 女性の静かなる戦いを描いたこのCMは、日本の男女に根付いているジェンダー的なステレオタイプからの解放を願う意図で制作されたもので、ポーラ社内でも共感の声が上がっているという。今回のCMは第2弾で、昨夏公開の第1弾も「この国は、女性にとって発展途上国」という挑戦的なメッセージを掲げていた。女性活躍が叫ばれているが、まだまだ実現には至っていないことを突きつけたのである。

 ところで、この第2CMについて、匿名掲示板・2ちゃんねるの開設者、ひろゆきこと西村博之氏がブログで異論を唱えた。西村氏が814日に更新したブログタイトルは「実態よりもイメージで物事を判断する頭の悪い人達。」。

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CMの中で、リクルートスーツを着てる女性が、世間や思い込みに縛られてるという表現をしてます。「縛るな、縛られるな。これからだ私。」ってなコピーが流れて、旧態依然の社会を批判してるわけですね。ってことで、POLAの説明会がどうなってるか見てみると、78件の募集があるのですね。そのうち「当日は、私服のご参加で構いません。」という私服可になってるのが、4件です。95%は、私服ではなく、リクルートスーツ的なものを要求されるわけですよね。「縛るな、縛られるな。」って、リクルートスーツで縛り付けてるのは、CMをやってるPOLAですよね。。。

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 そして西村氏は、ポーラCMはあくまでイメージであり、ってことで、「実態としては、95%ぐらいの感じで女性を積極的に縛り付けてる会社なんじゃないかなぁ」「社会を批判するのもいいけど、まず貴社から変えたらいかがですか?って思っちゃうおいらです」と提言している。

 ポーラは、BDの仕事を紹介するためのリクルート・フォーラムを全国各地で開催しているのだが、確かにポーラ公式サイトの案内を見ると、「当日は、私服のご参加で構いません」あるいは「服装は自由です。是非お気軽にご参加ください」と記されているエリアは、千葉駅、千葉(幕張)、船橋、新潟市の4カ所だけである。ただ、件のCMはリクルートスーツだけをさして「女性を縛る鎖」と言っているわけではないことは明らかだ。当然のように女性がやるべきと思い込まれているいくつもの役割を「鎖」と呼んでいることが読み取れる。ゆえにリクルートスーツで説明会に参加することを求めているからといって、すなわち「縛っている」と断言してしまうのは早計だろう。

 では、ポーラがあのCMを通して募集している「BD」とはどんな仕事なのだろうか?

 ポーラの創業は1929(昭和4)年。1940(昭和15)年に「ポーラ化成工業株式会社」として法人化。1946(昭和21)年、そこからさらに化粧品販売部門が独立して誕生したのが現在の「株式会社ポーラ」である。

 化粧品の訪問販売で利益を上げていったポーラは、現在全国に商品販売やエステ等のショップを約4,600店舗構え、百貨店コーナーも50店舗、ポーラで働くBDは約5万人いるという(また、海外9カ国にも出店)。

 全国に約650店舗ある「ポーラ ザ ビューティー」では、<美容のスペシャリスト「ビューティーディレクター」がまごころと技術でお客さま一人ひとりの「美」をサポート>とのことで、化粧品や健康食品の販売だけではなく、BDによるカウンセリングとエステサービスが特色。ポーラが今回のCMを通して募集しているのは、このBDである。BDは、いわゆる会社員ではない。ポーラ商品を必要とする女性への営業・販売・接客を「個人として」行う。BDは「個人事業主」なのだ。

様々な雇用形態

 ポーラの採用枠は、総合コース新卒(正社員)・中途(正社員)/百貨店採用新卒(正社員)・中途(契約社員)/障がい者(契約社員)と、大きく分けて5つに分類されている。

 たとえば2018年新卒採用。募集職種は総合コース、募集対象は20183月大学・大学院卒業見込み&既卒3年目まで、初任給は247,000円(2016年実績)、賞与年3回(3712月)、昇給年1回、通勤手当・超勤手当あり。福利厚生は各種社会保険完備、リフレッシュ休暇制度(連続5日以上を基本)、育児休業、育児フレックス制度、介護休業、介護フレックス制度、厚生住宅制度、転勤住宅制度、従業員持株会、社員割引制度、カフェテリアプラン型福利厚生メニューなど盛り沢山である。

 百貨店採用(新卒)。職種は百貨店ポーラコーナーでの接客・販売(ビューティーカウンセラー)で、雇用形態は正社員。給与は、大卒191,500円~、短・専門卒177,500円~。待遇および福利厚生は、賞与年3回(3712月)、昇給年1回(評価に基づく)、各種社会保険完備、交通費全額支給(社内規定に準ずる。研修期間終了後からの支給)、産休・育児休業制度(取得条件あり)、社割制度、制服貸与、各種研修制度、慶弔休暇、有給休暇、リフレッシュ休暇。

 中途の百貨店採用の場合、職種は新卒と同じく百貨店ポーラコーナーでの接客・販売だが、雇用形態は契約社員。給与は勤務地によって異なり、首都圏で月給187,000円~、大阪・名古屋圏で月給182,500円~、主な政令都市で月給175,000円~、その他エリアで月給169,500円~。「※169,500円は、短大・専門学校卒の方の最低給与額となります」だそうで……、また賞与は年2回と、百貨店採用は新卒と中途で待遇に開きがあるように見受けられる。昇給は年1回。

 そして、今回のリクルートCMが宣伝している、「ポーラ ザ ビューティー」勤務のBDは、ポーラに雇用されている従業員ではなく、個人事業主である。募集ページには「委託販売契約に基づく個人事業主」と記載されている。社会保険や産休・育休制度などは存在せず、おそらくは交通費も自己負担。

 ポーラ公式サイトではBDについて、個人事業主だからこそ「一人ひとりのライフスタイルに合わせた働き方が可能です。ポーラの商品をお客さまに販売した代金に応じて、ポーラから支払われる手数料が収入に」「固定給とは違い、成果に応じた収入が見込めます。実績を上げ、ショップオーナーになることもできます」「委託販売制度のため、在庫のリスクがありません」「定価販売のため、しっかり収入を得ることができます」とポジティブな面が強調されているのだが、つまり、(当たり前のことだが)売ることができなかった場合の低収入はBDの自己責任だ。BDになったものの適性が低く、実績を上げられなかったら……と思うと、リスキーな選択でもある。

それは生計を立てられる仕事か?

 現在募集中店舗の詳細には「美容に興味があれば、年齢・経験一切不問」「活動日数や活動時間は自分で自由に選べます」と書かれていたりもして、たとえばキャリアや学歴を持たない子持ち女性には魅力的に映るかもしれないが、成果を出せなければ収入は見込めない。

 BDは「ポーラ福祉共済制度」に加入すれば、育児補助や入院保険、人間ドック優待検診などが受けられるが、社会保険や厚生年金などの社会保障面では、本社および事業者勤務の総合職正社員や、百貨店採用された者とは明らかな差がある。そのぶん活動(勤務)時間が選べるなどの“自由”を得られる、ということではあるが、他の家族(夫や両親)に扶養されて生活の基盤を持つ女性ならともかく、CMから連想するのは新卒に近い若さの独身女性だ。技術を磨き、売り上げを伸ばし、オーナーやマネージャーになれるBDもいるというが、逆にさっぱり売れなければ「自立」どころの話ではなくなる。

 だが、社会保障のない「委託販売契約を結んだ個人事業主」だからこそ、定年が設けられていなくて、高齢になっても当人の心身が元気であればいつまでも働ける、という側面もあるらしい。810日発売の「女性自身」(光文社)82229日合併号掲載の「90代『ポーラレディ』美人長命の秘訣」には、91歳の女性が現役BDとして活動する様子がリポートされている。

 同誌によると、現在、全国に42000人いるポーラBDのうち、8090代が2900人、90代も300人ほど現役だという。大分県内でBDとして勤務する秋吉カズさんは、1925(大正14)年生まれの91歳で、まもなく92歳になる。1959(昭和34)年、34歳の時にBD(当時はポーラレディと呼ばれていた)になり、勤続58年の今も毎月25万ほどを売り上げているそうだ。先日、生涯販売業績が累計2億円を突破したとのこと。秋吉さんは、美容・食生活・おしゃれに常に気を遣っていて、今も毎朝スキンケアとヘアメイクを行い、日焼け止めとしわ対策クリームも欠かさず、出勤時にはスーツ&パールネックレス&ネイル。そんな秋吉さんの肌は透明感があり、70代くらいの女性に見えるというのだからスゴイ。

 ただ毎月25万を売り上げても手取り収入がいくらになるのだろうか。58年間で2億を売り上げてBDの手元に入るのはどの程度か? 社会保障はないが定年もない。定額収入はないが売上次第で手取りUP。どのような働き方を選んでもメリットとデメリットがあり、要は「自分が何を取るか」だ。CM等で宣伝される「良い側面」だけでないことは、覚えておきたい。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

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