奴隷制の歴史をめぐり、高校生が声を挙げた
白人至上主義者が12日にヴァージニア州で最初のデモをおこなった理由は、同州シャーロッツヴィルの公園にある南北戦争(1861 – 1865)の “英雄“、リー将軍の銅像撤去問題だ。南北戦争とは、米国南部で敷かれていた奴隷制の存続をかけてアメリカが南部と北部のまっぷたつに分かれて戦った凄惨な戦争だ。
双方が大量の戦死者を出したのちに南軍はやぶれ、リンカーン大統領が奴隷解放宣言をおこなったわけだが、南部諸州では今も南部特有の風土と歴史が尊重され、南軍由来の銅像や記念碑が大量に残っている。だが、そうした銅像は奴隷制を象徴するものだとして、地元の黒人高校生たちが銅像撤去を呼びかけたのだった。
その声がシャーロッツヴィルの市議会を動かし、撤去が決まった。ところが白人至上主義者は撤去に反対し、大規模なデモをおこなったのだった。だが、今や南部でも白人至上主義に反対するのは黒人だけではない。12日のデモで車に轢かれて亡くなった犠牲者ヘザー・ヘイヤーさんも、リベラルな信条を持つ地元シャーロッツヴィル在住の白人女性だった。
絵本によって、女の子に「平等と勇気」
アメリカにおける自由と平等のためにヘザーさんは命という大きな代償を支払うこととなった。人種を超えて多くの人がヘザーさんの行為を讃え、感謝し、同時に白人至上主義への怒りを新たにし、今後の活動の動機としている。
だが、ティナ同様にデモ以外の抗議方法を提唱する人々もいる。デモの否定では決してなく、個々人の生活環境や考え方によって多面的な活動を提唱しているのである。
例えばヒラリー・クリントンとビル・クリントンの愛娘、チェルシー・クリントンがいる。チェルシーは今年5月に絵本を出版した。13人の女性偉人集だ。取り上げられているのは女性の宇宙飛行士、医師、バレリーナ、スポーツ選手、最高裁判事など。
絵本の発売に併せてチェルシーの講演会が開かれた。そこで語られた「絵本出版の動機」は、なんとトランプ政権だった。
トランプが今年1月に司法長官に指名したジェフ・セッションズは、法律家でありながら黒人をNワード(黒人への蔑称)で呼ぶなど、人種差別主義者として知られる人物だ。司法長官とは人種差別問題の捜査を指示することもあるポジションであり、セッションズの司法長官就任には大きな反対の声が出た。エリザベス・ウォーレン上院議員も反対派であり、セッションズの就任を差し止めるために公聴会で、ある「手紙」を読もうとした。
手紙は、黒人の権利を得るために1950~60年代に展開された「公民権運動」のリーダーであり、のちに白人によって暗殺されたキング牧師の未亡人、コレッタ・スコット・キングがしたためたものだ。セッションズは南部アラバマ州の出身であり、生前のキング牧師は黒人差別が根強い同州でも盛んに活動し、デモの組織によって逮捕もされている。こうした背景があり、1986年にセッションズが連邦判事に指名された際の公聴会に、コレッタは「夫の功績を取り返しがつかないほどに傷つける」と反対の手紙を提出した。この時、セッションズの連邦判事就任は見送られた。
それから30年の時を経た今年、セッションズがトランプ政権入りを果たそうとした際にウォーレン議員が公聴会でコレッタの手紙を読み始めると、他の議員から罵声が飛び、ウォーレン議員は演台から排除されてしまった。
この件は大きく報道された。チェルシーは、かつて黒人女性が人種差別主義者への抗議として書いた手紙を、現代の女性議員が再度、同じ人種差別主義者への抗議として読もうとして妨害されたことに非常な憤りを感じたという。
この時、チェルシーは自分の幼い娘も含めた女の子たちに「女性だって、どんなこともできる」という可能性を自覚させ、かつ「女のくせに」といった偏見を乗り越える勇気を与えるための絵本の執筆を思い付き、すぐさま出版社に連絡を取った。そして、幼い二児を持つ母親としての多忙さをものともせず、わずか4カ月で『She Persisted: 13 American Women Who Changed the World』(彼女は粘り強かった:世界を変えた13人のアメリカ女性)の出版にこぎつけたのだった。