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「卵子凍結」は、将来の出産のための“保険”となりうるか?

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Photo by Arne Hjorth Johansen from Flickr

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  政府が、女性の出産開始年齢を早め、出生数を増やすために始めた「卵子の老化」キャンペーンでは、老化した卵子の映像とともに、女性は年をとるほど妊娠しづらくなるということが繰り返し唱えられた。

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卵子の老化”で油断!? 中絶件数が出産件数を上回る40代後半

 その結果、にわかに脚光を浴びるようになった生殖技術が「卵子凍結保存」である。

 妊娠がしづらくなる原因が「卵子の老化」ならば、若い卵子を採取して凍結しておけばいい、ということになる。子宮は卵子ほど老化が顕著ではない。母親が子宮に疾患のある娘の代理母になって出産することができるのは、このためである。

 そもそも卵子凍結は、癌患者の卵子を放射線療法などの悪影響から守るために実用化されたのだが、2013年に日本生殖医学会が、健康な未婚女性の卵子凍結を認めるガイドラインを出したことによって、将来の出産に備えて卵子を凍結する女性が増えてきた。ただ、日本産科婦人科学会は、健康な女性には推奨しないという方針を示している。理由は「身体に対する負担が大きいから」である。

 実際、精子と異なり、卵子の採取は身体への負担が大きい。通常、卵子は1カ月に一つしか排卵されないが、内服薬や点鼻薬、注射などで複数育てた後、卵巣に針を刺してできるだけたくさんの卵子を採取する。一度に採取できる卵子の数は、採取方法によって異なるが、多くても1015個といったところだ。卵子を解凍して使う際には、35歳以上の女性の場合、妊娠の確率から考えて40個から50個必要と言われているため、この数に達するまで何度も採取しなければならない。費用は、保険適用外であるため医療施設によって異なるが、前納金として数十万円を支払い、その後段階に応じて追加していくという施設が多く、最終的には100万円を超えることもある。したがって、卵子凍結は誰にでも気軽に行えるものではない。

 2012年に「卵子の老化」キャンペーンの端緒を開いたNHK『クローズアップ現代』(現在は『クローズアップ現代+』と番組名を変更)は、201610月に「老化を止めたい女性たち 広がる卵子凍結の衝撃」と題した続編を放送した。

 番組によれば、全国で44の医療機関が卵子凍結を行っており、合計で1005人の女性たちが実際に卵子を採取、凍結。うちすでに85人が卵子を使用し、12人が出産に至っているという。取材を受けた、卵子凍結を検討しているという40歳独身の会社社長の女性は「子どもを持つという夢のために、できる限りのことをやりたい」と語り、同じく40歳独身の金融機関に勤める女性は、「将来、卵子が必要となったとき『40歳のときの卵子があるんです』と言える。いわば隠し玉。保険みたいなものです」と語った。

 一方、以前は自身のクリニックで卵子凍結保存を行っていたが、今は行っていないと語る医師が登場。彼は当初、仕事が忙しくて今は出産できないが、いずれは産もうと考えている20代から30代の既婚女性を卵子凍結保存の対象として考えていた。しかし蓋を開けると、「40歳を前にしてパートナーもいない独身の女性」ばかりが殺到し、結局、保存期限までに出産にいたる女性はわずかだった。これでは出産への「はしごをかけて、外すようなもの」だと考え、卵子凍結保存をやめたという。実際、番組には以前卵子を凍結保存したものの、それで安心してしまい、かえって結婚や出産が遅れてしまったと語る女性も登場した。これでは、卵子凍結によって一時の焦燥感から逃れたに過ぎない。

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田中ひかる

1970年東京生まれ。著書に『月経と犯罪――女性犯罪論の真偽を問う』(批評社)、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史――タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房)など。

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月経と犯罪―女性犯罪論の真偽を問う