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【第13回】トランス男子のフェミな日常「法律に体を合わせますか」

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 夏も終わりだし怪談から始めよう。

 2015年にトランスジェンダー・ヨーロッパは「34 Countries in Europe Make This Nightmare Reality(ヨーロッパの34カ国ではこの悪夢が現実です)」という動画をリリースした。これはトランスジェンダー女性の主人公が法的な性別変更をするために様々な悪夢を体験するというものだ。

 役所では職員にジロジロ見られ「あんた、ビョーキの診断書は」と聞かれる。精神科医は「小さい頃にはお人形遊びをしましたか? 性経験は?」とステレオタイプな質問をし、裁判所にいくと離婚したくないと妻が涙を流す。最後に待っているのは性別適合手術だ。ベッドに寝たままカラカラと廊下を運ばれていく。「麻酔をかけるのでカウントダウンしてくださいね。ほら1098……」そして意識を失う。

 これはヨーロッパ34カ国におけるトランスジェンダーの法的状況とのことだが、日本の場合も「ほぼ同じ」状況だ。「ほぼ同じ」というのは日本はもう少したちが悪いからで、日本の性同一性障害特例法には「未成年の子がいると性別変更できない」というオリジナルな要項も付け加えられている。

 もともと身体違和が強く、その解消のために手術を選ぶというなら別に悪夢でもなんでもない。でも、実際には手術を希望していないのに、法律に体をあわせる人々がいるのが問題だ。「世間体もあるしそろそろ結婚したいから、戸籍の性別変更をしてほしい」と彼女に頼まれた友人のトランス男性は「なんで世間体のために体にメスをいれなきゃいけないの」と憤る。女性から男性への変更の場合には子宮・卵巣の摘出手術を受けることになるが、手術の前後で外見は変わらない。自分はホルモン注射だけで充分なのにと彼は言うけれど、同じような状況で手術を選ぶ当事者たちもたくさんいる。家族を持つためとか、就職差別のリスクを減らすとかの理由で。

 今年に入ってから、内閣法制局に特例法の手術要件について問い合わせをしてみた。法的な男性に子宮・卵巣があり、出産可能である場合に見直しが必要となる法律のリストを尋ねたところ、実に膨大な量が出てきた。女性にだけ定められている下腹部への放射線被ばく量の規定やら、男女で異なる再婚禁止期間の見直しやら見るだけで気が遠くなった。トランス男性の多くは自ら出産したいとは考えていないと思われる。それでも、なかには産んでも構わないとか、望まない妊娠に見舞われるという例も考えられる(ちなみにトランス女性の場合には精子凍結などの技術があってまた話は異なる)。そうなると、単に特例法の一部分を削除すればいいだけではなく、考えなくてはいけないことがまた増える。

 先日、毎日新聞で、性分化疾患を有する2名について、子宮卵巣があっても女性から男性への戸籍の訂正が実現した例が取り上げられた<性分化疾患>手術せず性別変更 「心の性」重視し家裁許可 最終閲覧:82413。これはあくまでも性分化疾患のケースだが、性同一性障害特例法の手術要件の根拠についても、今後見直す議論が進んでいくだろう。性別適合手術を安心して受けられる権利と、手術をしなくても安心して生きられる権利の両方が保証されないと、トランスジェンダーたちの悪夢は終わらない。冒頭のヨーロッパでは、今春に欧州人権裁判所が「トランスジェンダーの法的な性別変更に手術を義務付けるのは違法」とする画期的な判断を下した。日本は今後どうなるか。

遠藤まめた

1987年生まれ、横浜育ち。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をもとに10代後半よりLGBT(セクシュアルマイノリィ)をテーマに啓発活動をはじめる。主にLGBTの若者支援や自殺予防に関わる。著書に「先生と親のためのLGBTガイド 〜もしあなたがカミングアウトされたなら」(合同出版)ほか。

twitter:@mameta227

サイト:バラバラに、ともに。遠藤まめたのホームページ

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先生と親のための LGBTガイド: もしあなたがカミングアウトされたなら