エンタメ

「察してほしい父親」の娘たちへの甘え、深刻さを認めない「母親の弱さ」/『幼な子われらに生まれ』

【この記事のキーワード】
幼な子われらに生まれ

Youtube『幼な子われらに生まれ』ファントムフィルム本編映像より

 826日より公開中の映画『幼な子われらに生まれ』。原作は、21年前(つまり1996年)に発表された重松清の同名小説で、今回の映画化を知ってから拝読したところ、妻子ある中年男性の家族に対する本音が、それはそれはつらつらと表現されていていました。

 主人公の田中信(浅野忠信)は、仕事中も、バツイチ同士で再婚した今の家族といる時も、実の娘との面会交流を楽しんでいる時も、ひとりカラオケをしている時でさえも、シャツを第1ボタンまで留めている男です。前の結婚での失敗を繰り返すまいと、仕事での成功よりも家族といる時間を大切にし、仕事で遅くなる時はケーキ屋に寄って妻と娘たちにお土産を買って帰る、良き夫・良きパパ……で、いようと自分で自分に言い聞かせている感じです。

 信の家族は、妻で専業主婦の奈苗(田中麗奈)、奈苗の連れ子である小6の長女と幼稚園児の次女です。奈苗は元夫・沢田(宮藤官九郎)のDVが原因で離婚し、4年前に信と再婚、現在は信との第一子にあたる子を妊娠中。次女は信を“本物のパパ”だと思って懐いていますが、事情を知っている長女は懐かず、奈苗の妊娠を知ってからは露骨に拒絶反応を示します。そんな感じだから、信も妻の妊娠をあまり喜べていません。カレンダーを見て堕胎のタイムリミットを確認したり、しています。

 映画を鑑賞していて、とりわけ生々しく感じたのは、長女と対峙する大人たち(信・奈苗)の戸惑いと甘えです。いるだろうなぁ、こういう大人。いたよなぁ、こういう大人。気難しい子供に手こずって奮闘しているようでいて、実は子供に甘え、子供を舐めきっている大人。そして今、大人である自分はどうか、省みずにはいられません。

良き親であろうとする彼らの甘え

 たとえば信は、自分に懐かず辛辣な言動を繰り返し、新しい弟妹が生まれることも歓迎していないであろう長女に手を焼いて、それでも良いパパでいようと心がけはするのですが、長女の(自分にとっては不都合な)本音・気持ちと向き合うことは躊躇します。何とか穏便に済ませたい、きれいにまとめたい、わかってくれないかな、察してくれないかな……と。

 奈苗は、家族全員と血の繋がった新しい子供の誕生にすがっており、長女が今の家族を嫌悪する気持ちに気づいてはいるけど、目を背け、なるべく深刻に受け止めないように、楽観視しようと努めています。つまり、長女にとっては義理の父にあたる信も、実の母にあたる奈苗も、小学生の長女の気持ちに寄り添うことも向き合うことも拒み、ただ長女に空気を読んでほしいと望み、甘えているのです。

 彼らは親として子供を舐めているし、子供を「ひとりの人間」と認めようとしていません。あるいは、子供は順応性があるから、赤ちゃんが生まれちゃえばきっと大丈夫とでも思っているんでしょうか……。傍から見れば、むしろ早い段階で反抗してくれてよかったんじゃないの、とも思えるんですけどね。もし長女が、両親の顔色や気持ちを察して、自分の気持ちを押し殺して家族と仲良くしたり、弟妹の誕生を喜ぶそぶりを見せていたとしても、この人たちは気づかなさそうですし、長女が中高生になってから両親への嫌悪を表出させたらそれこそ手に負えなかったんじゃないかと。

 しかし一方で、親も不完全なひとりの人間でしかありません。常に長女の気持ちを慮り優先させることは出来ませんし、ナァナァでそのうち折り合いがつけばいいなぁ、と逃げ腰の姿勢も、物語の主役としては「いかがなものか」ではあるけれど、現実には十分あり得ます。巷にあふれる親子の感動物語よりはよほどリアリティがあり、鑑賞者を泣かせてスッキリさせるどころか不安にさせる映画かもしれません。つまり問題提起です。

大人であり、親であっても、弱い部分はたくさんある

 再婚してステップファミリーを築こうとしているけれども、長女の拒絶でギクシャクしている信にとって、年間4日しか会えない実の娘との面会は幸福の極みです。その日が楽しみでしょうがなく、あからさまにウキウキ浮かれる信。しかも実の娘は、明るくて素直で利発で……やたら魅力的に(信にとって都合のよい風に)描かれています。

 ままならない連れ子との対比が鮮やかなわけですが、信はこちらの子供にも同様に「甘え」ているのは明らかでした。たとえば実娘に「今の家族の写真を見せて」と言われ、曖昧な態度でごまかして“察してもらう”シーンに、そうした甘えが顕著です。説明をしない。察してもらいたがる。それが信です。相手の気持ちも出来るだけ聞こうとせず、“察し合って”やり過ごそうとします。

 元妻でバリキャリマザーである友佳(寺島しのぶ)に、信はこう責められます。友佳から「わけあって次の面接交流をキャンセルしたい」との連絡を受け、仕事終わりに再会した元夫婦。友佳は今の夫が末期がんだと打ち明け、「今の私の気持ち聞かないの? 旦那が入院中に前の旦那と会っている気持ち興味ないの? あなたは昔からそう。理由は聞くけど気持ちは聞かない」と信を詰めるのです。「興味なくないよ」「そうだっけ」とすっとぼける信に、かつて第一子を堕胎したときの“気持ち”を今さらながら打ち明ける友佳。信にとってみれば、今さら言われても……でしょうか。

1 2

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

幼な子われらに生まれ (幻冬舎文庫)