エンタメ

武井咲の妊娠を「迷惑」扱いするマタハラ報道が「常識」なら、働きにくく産みづらい社会は変わらない

【この記事のキーワード】
武井咲

『黒革の手帖』公式Instagramより

 9月1日に発表された、女優・武井咲さん(23)とEXILETAKAHIROさん(32)の結婚と妊娠。2014年、『戦力外捜査官』(日本テレビ系)のダブル主演がきっかけで親しくなった2人は2年半の交際を経て結婚を意識、およそ2週間前に武井さんの妊娠が発覚したそうです。武井は来年4月頃の出産を予定しているとのこと。

 週末は、そんな2人を“祝福する声の報道”が中心でした。ところが週明け94日になると、彼らを非常識と謗る報道が目立ち始めました。ざっくりいうと、“武井の授かり婚は、あちこちに多大なる迷惑をかけ、計り知れない損害を与え、そのため億単位の賠償金・違約金が発生するのではないか”という話です。当事者が必ずしもコントロールできるわけではない「妊娠」に対して企業がペナルティを与えることは、近年問題視されているマタニティハラスメントと同義ではないでしょうか。それを「武井がルール違反を犯した、事務所は大迷惑している」と堂々伝えてしまうところに、マスコミと芸能界の時代錯誤な慣習を感じます。

 武井さんは現在放送中の主演ドラマ『黒革の手帖』(テレビ朝日系)の撮影はすでに終了していますが、今度は来月から放送開始予定の連続ドラマ『今からあなたを脅迫します』(日本テレビ系)の収録が始まります。来年1月から放送開始予定の連ドラ『フラジャイル』(フジテレビ系)にもヒロインとして出演予定ですが、こちらは降板するか、撮影を前倒しして年内に出演シーンをすべて撮り終えるか協議されている模様です。

 そのほかにも彼女が出演を予定していた映画やドラマ作品は多くあり、いずれも降板するかもしれない、と見られています。来春出産予定と考えれば致し方ない話ですが、彼女の所属するオスカープロダクションの鈴木誠司副社長は、ワイドショーの取材に応えるかたちで「710月クールには復帰」と明言しており、産休・育休を経て早めに女優復帰をする見込みです。となると、いくつかの作品は変更なくそのまま出演・撮影となるのではないでしょうか。

 さらに武井さんは10本のCM契約を抱える身でもあり、CMキャラクターとして設定された独身女性の立場を重要視すべきだった、授かり婚は契約違反に該当するのではないか、という見方の報道も目立ちます。オスカープロモーションは、関係者各位への“お詫び行脚”を開始するとも。

 特にエスエス製薬のアレルギー用薬「アレジオン」は、妊娠中・授乳中の服用NGの製品なのだから、妊娠中の者がCMに出演するのはふさわしくないと見なされるのではないか、という報道が相次ぎました。しかしエスエス製薬は、すでにCM放送期間を終了していること、映像中に武井さんが同薬を飲むシーンがあるわけではないことから、商品サイトに掲載中の動画を取り下げる予定はないと発表しています。その他のCM契約企業も、妊娠・結婚による降板はないとのこと。騒いでいるのは外野だけのように見えますが……表面に出さないだけで、本当に事務所・代理店・クライアント間では「契約中なのに結婚・妊娠なんて」とモメにモメたのでしょうか?

違約金請求はありえない

 スポーツ紙や週刊誌の報道では、「賠償金」「違約金」「10億円以上」といったショッキングな文字が飛び交っています。武井咲さんが売れっ子女優として抱えていたCMやドラマ、映画などの出演契約を軽視し、自己の欲望を優先して無責任に結婚に突っ走ったかのような見方がそこにはあります。デビューした12歳から所属事務所は彼女に先行投資し、『黒革の手帖』でようやく大ブレイクしたタイミングなのに……と嘆く声、事務所幹部は怒り心頭だ、との声もあります。

 「週刊文春」(文藝春秋)には、「十本以上決まっていた映画やドラマもほとんどが“武井ありき”の企画で、見直しとなれば得られるはずだった多大な利益を失うことになる」との芸能関係者のコメントが掲載されています。同誌には「スケジュールは向こう何年先まで埋まっていたが、結婚・出産で白紙に戻さなければならない。損害は十億円ではきかないレベル」という大手芸能プロ幹部のコメントもです。

 この“損害”賠償を、もしタレントが請求された場合、タレントに支払い義務が生じるのか、弁護士法人ALGAssociates執行役員・弁護士の山岸純氏に伺ったところ、次の回答を得ました。

「日本の裁判所では、契約条件などを形式的に当てはめると不都合な結果が発生してしまうような場合には、芸能人も『働いている人』として『労働者』と判断し、労働基準法などで厚く守ることが多いです。

労働基準法は、『妊婦にとって有害な業務をさせてはいけない』、『時間外労働や深夜労働をさせてはいけない』、『産前6週間、産後8週間は労働をさせてはならない』と規定していますし、男女雇用機会均等法は『医師などの指導にならい、勤務時間や業務を軽減するなどの措置をとらなければならない』と規定しているため、法律上、妊婦である武井咲さんにドラマの撮影などをさせてはならない、撮影に応じなかったことをもって違約金などを請求してはならない、ということになります」

 無論、出演ドラマの撮影現場でもそうしたことはわかってはいるようで、「武井の体に気をつかって、演出を変更するなど対応に追われている」といいます。ただ、妊娠という心身が特殊な状態に変化する期間であり、言葉どおり「一人の体ではない」以上、年内に2本も並行して連続ドラマ撮影をすることが一個人として心配ではあります。若いから大丈夫、ということもありません。それでも、作品制作側も、事務所も、武井さんも、降板という選択は取りたくないのでしょう。無事に仕事を終え出産できることを祈るばかりです。

 また、契約中のCMがあるといっても、すでに撮影済みであれば何も問題はないでしょう。問題があるとしたら、契約継続中クライアントの次回CMの撮影演出が「絶対に独身女性でなければ成立しないもの」だった場合……くらいではないでしょうか。

1 2

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー

「いいね!」「フォロー」をクリックすると、SNSのタイムラインで最新記事が確認できます。

マタハラ問題 (ちくま新書)