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女子の大学進学率が男子より高い状況も問題。アメリカの「落ちこぼれ男子問題」は日本でも火を噴くか?

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どのように落ちこぼれ男子問題が火を噴いたのか?

 なぜいま落ちこぼれ男子問題が注目されるようになったのでしょうか?

 例外も多く存在しますが、一般的に経済発展と共に国の産業構造も農業から軽工業、重工業、そしてサービス業等へと変化していきます。産業発展と共に求められる教育水準も変化し、小学校(読み書き・計算が出来れば、肥料や農薬の計算ができようになります)、中学校(工場に雇われる立場になるので、もう少し知識が必要になります)、高校(工業科・電気科など)、さらに大学や大学院へと上がっていきます。

 また、身体的な強さがものをいう部分もある重工業までは男性が主な働き手となりますが、サービス業や科学テクノロジーを活用した産業が主流になると、腕力の重要性が落ち女性の労働参加も進みやすくなるので、男性にとって職を得るための競争が激しくなります。

 しかし、アメリカの、その中でもラストベルトと呼ばれる地域では特に、石炭・鉄鋼・自動車産業からの脱却が求められようになったにもかかわらず、男性の教育水準がそれに見合うペースで上昇せず、男性の失業・低賃金問題が深刻になっていきました。これが落ちこぼれ男子問題がアメリカで火を噴いた背景です。

 現在私が住んでいるミシガン州の最大の街・デトロイトは自動車産業で有名です。ラストベルトのど真ん中に位置するこの街は夕張市のように財政破綻を起こし、現在では全米で最も治安の悪い街と言われています。

 実はトランプ大統領が当選した鍵は、このラストベルトにあるとも言われています(朝日新聞の「トランプの時代」などの連載記事がこれを鮮明に描いています)。石炭産業の復活、自由貿易撤廃で工場を米国内に取り戻す、移民排斥といったトランプ大統領が掲げた政策は、職を失ったないしは低賃金にあえぐこの地域の高卒男性の共感を呼びやすいものだったのでしょう。

 しかし、機械化や技術革新が今後も進展していけば、高卒男性程度の知識やスキルで十分な賃金を得られる職はどんどん無くなっていくと考えられます。トランプが掲げる政策がこうした流れを止められるとは考えられず、画餅でしかありません。低賃金にあえぐ高卒男性の問題を解決するには、落ちこぼれ男子問題に取り組んだり、リカレント教育(生涯教育のひとつ。労働と教育を繰り返し行えるような仕組み)を充実させたりすることによって、この地域の男性の教育水準を上げる必要があるのです。

日本で男子の落ちこぼれ問題は火を噴くのか?ーバランスの取れた教育政策の重要性

 それでは日本でもアメリカのように落ちこぼれ男子問題が火を噴くと考えられるのでしょうか?

 結論を先に述べると、日本で男子の落ちこぼれ問題が火を噴くのは、まだしばらくはなさそうです。国際学力調査のPISAの結果を見ると、日本は先進諸国の中でも男子の落ちこぼれ比率(PISALevel2以下の学力を持つ生徒の割合)が最も低い国の一つですし、読解力における男女間の落ちこぼれ比率の差も最も小さくなっています。さらに、日本の大学就学率は先進諸国の中で例外的に男子の方が高いだけでなく、男性の雇用に占める第三次産業の割合もイギリス・アメリカ・オーストラリア・カナダなどの英語圏の国と比べて10%程度低くなっています。しかし、高卒男性と大卒男性の未婚率の差がこの20年で拡大するなど、社会問題として顕在化する恐れがあり、油断することは出来ず、今のうちから対策を考えておけるとよいでしょう。

 教育問題を解消しただけで経済問題が解決するわけではありませんが、英語圏の男子の落ちこぼれ問題は教育問題を解消しないことには社会経済問題が解決しない局面が存在することを示唆しています。これは、日本で産業構造が転換するところで女子の教育水準が伸び悩み、ジェンダー平等の点で依然として課題を抱えていることも同様のことを示唆しています。

 バランスの取れていない教育政策は、新たな経済問題や社会問題を引き起こしたり、あるいはより深刻化してしまうことがあります。これは落ちこぼれ男子問題だけでなく、学歴差から生じる男女間の賃金格差やマイノリティ全般を取り巻く教育問題など様々な点でいえることです。ジェンダーに代表されるような様々な人の属性に配慮したバランスの取れた教育政策を追求していくことが社会の繁栄にとって重要だということを、アメリカが直面する現状から日本は学ぶことができると思います。

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畠山勝太

ミシガン州立大学博士課程在籍、専攻は教育政策・教育経済学。ネパールの教育支援をするNPO法人サルタックの理事も務める。2008年に世界銀行へ入行し、人的資本分野のデータ整備とジェンダー制度政策分析に従事。2011年に国連児童基金へ転職、ジンバブエ事務所・本部(NY)・マラウイ事務所で勤務し、教育政策・計画・調査・統計分野の支援に携わった。東京大学教育学部・神戸大学国際協力研究科(経済学修士)卒、1985年岐阜県生まれ。

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子ども格差の経済学