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精神論で売上は伸ばせるか…飲みニケーション叱責を肯定する単純明快なサクセスストーリーへの違和感

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キリン 一番搾り

【2017年リニューアル】 新・キリン 一番搾り

 95日に放送された『ガイアの夜明け』(テレビ東京系)での“キリンビール社員の飲み会”シーンに対して、視聴者から批判の声が上がっていた。『ガイアの夜明け』は、2002年から放送されている経済ドキュメンタリー番組で、さまざまな働く人を密着する。95日の放送では、「異変の夏…“激闘”シェア争い!」と題して、今夏ビールやアイスクリームの売上を伸ばそうと奮闘するメーカーの様子が伝えられた。

 密着取材を受けたうちのひとりが、キリンビールの近畿統括本部・第2営業部でスーパーマーケットを担当する35歳の男性。入社12年目の彼はこれまでの実績を買われ、昨年から激戦区の大阪に赴任しているという。関西のビールシェア率はアサヒビールの「スーパードライ」が44%と圧倒的で(キリン「一番搾り」は15%)、キリンビールは長年苦戦を強いられてきた。棚面積は売れ筋の「スーパードライ」に広く割かれており、キリン「一番搾り」はなかなか入荷量を増やしてはもらえない。キリンビールは今年、主力商品の「一番搾り」をリニューアルしたこともあって、男性はスーパーのチーフバイヤー(仕入れの総責任者)に売り込みをかけるが、入荷量は伸び悩み、7月の目標には全く届かなかった。本部会議でも歯切れが悪い男性に厳しい視線を送っていたのが36歳の先輩社員(男性)。「(売上を)2倍いくために何するの?」「数字を気にしないで交渉はどうやるの」と咎める。そしてその夜、先輩社員は男性を居酒屋に連れていき、他の社員も含めた数名で飲む。「本当の会議が始まります」とナレーションが入った。ネットで批判されたのは、その後数分間流れる、この“本当の会議”についてである。

 先輩社員は男性に対して「覚悟が足らん」と喝を入れる。「10年後の会社を支えるのは俺たちの世代」「お前が今のまま10年後になったら、下の子がついてこないでしょ」「できない、知らない、やだ。そんなやつにリーダーやってほしくない。だから厳しくしている」「やってないねん」「お前、どれだけやっとんねん。やれや。できるやろ」と畳み掛ける先輩社員の“熱い言葉”に、男性は涙を流す……。

 この場面に違和感を覚えた視聴者たちから、ネット上に「まずい酒の飲み方」「パワハラまがい」「飲み会説教」「精神論」と反発の書き込みが相次いだ。先輩社員は<業務務時間外>と見られる時間に、<社外>である居酒屋(酒の席)で、後輩にあたる男性に<説教(=仕事に関する話)>をしている。無論、<上司>という立場として、であろう。よくある(ありそうな)光景に見え、だからこそ「あってほしくない」と普段感じている人が、飲み会説教シーンを肯定的に放送した番組に抵抗感を覚えたのではないだろうか。しかし先輩社員の精神論や説教は、少なくとも放送された部分に関しては、男性に対する人格否定等のハラスメント発言や暴言ではなかった。また、男性がどのような気持ちで涙を流したのかも、はっきりとは語られない。こういう場面を、仕事をしていく上で当たり前のものとして受け入れ、乗り越えなければならないということ自体、当然ストレスではあるが、仕事にはストレスがあって当たり前ともいわれる。そこに共通のルールはない。

 ただ、いわゆる<飲みニケーション>の場は、<業務時間外>に<社外>で設けられることが多く、仕事とプライベートとの境界線が曖昧で、参加者間の認識のズレからトラブルのもととなることもある。片方は仕事の一環のつもりだったが、他方はプライベートのつもりだったなどのズレが、結果、その場での言動を巡るトラブルに発展するリスクが伴うのも事実だ。

 番組の例で言えば、飲み会を“本当の会議”というわりには、具体的な数値目標と達成のための筋道を論理的に検討する場でもなく、議事録も残せない。あとから「言った」「言わない」の水掛け論にもなりかねない。誤解やトラブルを避けるためにも、重要な話はなるべく<社内>で、業務時間内に行うのがベターだろう(その時間を捻出するのが難しい職場もあるだろうが)。

 個人的には、即ちハラスメントと言い切れるような内容ではなくとも、先輩社員が根性論・精神論を振りかざして説教をする飲み会の様子を、肯定的に捉える演出の番組構成には疑問が残る。番組後半では、飲み会以後、発奮した男性がスーパーの売り場に立ち、お客に一番麦汁と二番麦汁を飲み比べてもらうなどPRした結果、より多くのキリン「一番搾り」を陳列させてもらうことが出来、「おいしくビールを飲めそうです」「覚悟をもってやります」と笑顔を見せるところで締めくくられている。頑張っているがなかなかうまくいかない→会議で叱責される→飲み会でぺしゃんこにされる→這い上がって努力・根性・勝利、というストーリーの至って単純な話だ。

 短い尺におさめるために単純明快さは必要かもしれないが、「難しい仕事でも、頑張ったら出来ました」では試行錯誤の過程がいまひとつ見えてこない。キリンビールのような日本のトップ企業の営業部で、綿密な戦略会議ではなく、飲み会叱咤激励からの個人の頑張りに委ねるというやり方がまかり通るものだろうか? 日頃、先輩や上司から飲み会で説教を受け、具体的な指示や確認なきまま右往左往している会社員にとっては、「ヤバイものを見てしまった」と感じてもおかしくない。長時間労働や過労自殺をはじめとした労働に関する課題が多く残る中で、合理性を欠く「根性論」や「精神論」に縛られた労働環境を“そういうもの”と甘受している人も少なくはないだろう。少なくとも私は、その肯定的な表現に思慮を感じられず、同意を持てなかった。

中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

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