冒頭で挙げた、居酒屋での飲み会に当てはめてみよう。
・DIRECT:B美が帰るとき、B美もしくはCが「A子も一緒に」と声をかけ、その場から退出させる
・DELEGATE:Cがトイレに行くふりをして店員に声をかけ、個室の様子を見にきてもらう
・DISTRACT:Cが“ついうっかり”グラスを倒し、先輩たちに水をかけ、その場を白けさせる
などなど、ここではそれぞれ一例を挙げるにとどめたが、状況によって何通りもの介入の仕方が考えられる。
「これなら自分にもできそう」
“DELEGATE”“DISTRACT”という方法があると知り、参加者から「これなら自分にもできそう」という感想が出てきた。ダイレクトな介入は、多大な勇気を要する。特に男性よりも体格、体力的に不利な女性の場合、正面切った介入は簡単なことではない。けれど、事態を収めてくれそうな人を頼るとか、その場の空気を壊すようなことをあえてやるとかなら、自分にも可能だと思える。
一方、自分のまったく知らないところですでに最悪の事態が起きてしまっていることもある。その影響が深刻で被害者がひとりで追い詰められ、さらに悪い状況になる……これを第三者介入によって防ぐための、4つめの「D」が提示された。
・DELAY 事後介入する=声をかけたりフォローアップしたりして、サポートする
その介入も「あれ?」「もしかして」からはじまる。まるで何ごともなかったかのようにふるまっていても、性被害に遭ったあとは、人が変わったようになったり、ぼーっとしていたり、食欲が落ちていたり、何にも集中できなくなっていたり、引きこもるようになったり……といった性的トラウマやPTSDが見られることが多い。親しい間柄でも打ち明けにくい被害に、こちらから気づくアンテナが求められている。
* * *
ワークショップを終えた大学生らは、次のような意見を交わし合った。
「性暴力にかぎらず、今後は道で困っている人がいたら声をかけたい」
「周囲に対するモヤモヤをそのままにしないことで、問題を問題として認識できるようになると思う」
「ふだんから小さなトラブルにも介入する“避難訓練”をしておけば、性暴力にも介入できるのでは」
「おせっかいで出しゃばりな人間になりたい」
おそらく多くの人にとって、「被害者になる自分」「加害者になる自分」は想像しにくい。そこには「私は大丈夫」という謎の正常性バイアスが働きがちだ。でも、「第三者として介入する自分」はそれに比べ、想像力が及びやすいのではないか。そしてその角度から性暴力そのものを考えることで、見えてくるものもある。
同ワークショップは場所やテーマを変えながら継続して開催する予定だという。今後の活躍に期待したい。