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避妊啓発の形をとりながら「妊娠を武器にできる女性は強い」と説くあまりに軽いノリ

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わたしたちは愛についてよく知らない

わたしたちは愛についてよく知らない

 恋愛もそうだが、セックスにまつわる話題でも「男と女は違う」のが自明のこととして話が進んでいくことは多い。その根拠の1つとして挙げられるのは、「女は妊娠する(してしまう)けど、男はしない」というやつだ。

 10代の頃に学校で受けた性教育で、男性の体育教師が「いいかー、女性陣は気をつけろよ。傷つくのは男じゃなくて女だからな。(ヤれた)男はむしろラッキーなだけだけど、女は泣きを見るんだぞ」とか言っていてドン引きしたのを憶えている。そうした性教育で、セックスは予期せぬ妊娠というリスクを負う可能性を持つ、危険な行為だと思わされた女性は少なくないだろう(というか、男はヤれたら「ラッキー」なのか……女性が嫌がっていても……?)。

 その一方で、悪女が自分の身体を武器にする、つまり安全日と偽ってセックスして妊娠、出来ちゃった婚に持ち込む……というストーリーのドラマや小説などフィクションは馴染み深いもので、ファッション雑誌にそのような体験談が掲載されていたりもする。おなじみの「恋学~Koi-gaku~」ではこんな記事があった。

セックスや避妊に関する男女の考え方のちがい(恋学~Koi-gaku~) 

 先にいってしまうと、この記事で述べられている「セックスや避妊に関する男女の考え方のちがい」とは、<妊娠したことを武器にできるのが女子で、できないのが男子>というものだ。「妊娠を武器にする」というのは、たとえば女性側が「安全日だから」「ピルを飲んでいるから」等と“敢えて偽って”、「中出し」を誘い、意図的に妊娠し結婚を迫ることを示す。

 ではそれを力説して読者に何を伝えたいのかは、正直よくわからない。女性に、妊娠を武器にするという賢い方法を使って男を手のひらで転がせ? あるいは男性に、妊娠を武器にするような女もいるから、どんなにナマが気持ちよくてもその気がないなら何が何でもゴムを使え? どちらでもないのだろうか。著者は男性だが、次のようにまくしたてる。

<妊娠を逆手にとって、「できちゃったから結婚してよ(中略)」と言えるのは、女子だけです。あるいは「あなたはこの子のお父さんにならなくていい。わたしがひとりで産む」と言い張ることができるのも女子のみ。男子はできちゃったら「ああ、できましたか」と思うしかない。誰の子どもなのか、たしかめようもないので「ああ、できましたか、よかったね」と言うしかない>

<避妊に失敗して傷つくのは女子ですが、避妊したとウソをついて妊娠し、それによって自分の人生をリセットできたり、バージョンアップできたりするのも女子だけの特権。セックスにおける避妊に関しては、女子のほうが選択肢をたくさんもっています>

<その選択肢を賢く使ってセックスするというのも女子が賢くセックスする(生きる)知恵なのです>

 随分と「妊娠」を軽く見ている記事だと思う。女性の妊娠が判明し出産を選択すれば、これまでと同じライフスタイルを送ることは難しく、食生活や行動面でも制限がかかる。経過が順調なら喜ばしいが、高血圧症や切迫流産や切迫早産や逆子などのトラブルが起こることだってある。もし生まれた我が子が病気や障害を持っていたらどうしよう、ちゃんと育てていけるのだろうか……と不安を感じ、そんなことを感じている自分に自己嫌悪を抱いたりもする。産んだ後は、当然、新生児をイチから育てなくてはならないのだ。

 そもそも避妊したと偽って妊娠することを、一概に「女性の賢い選択」と断言できるものなのか。まして、記事に書かれているような、仕事を辞めたくてその手段として妊娠・結婚した場合、おそらくはお腹の子の父であり自分の夫となった男性の扶養家族になるのだろうが、その彼の心身がずっと健康でいるという保証はなく、癌が発覚するかもしれないし鬱病になるかもしれないし失業するかもしれない。出産後、彼の仕事が忙しすぎてワンオペ育児を強いられたり、産後クライシスに陥ったりして、夫婦仲が悪化するかもしれない。なにより、そうした手段で築いた家庭が安泰だろうか。夫となる男性はその女性を愛せるのか。

 そういうリスクは出来ちゃった婚に限らずあるものだが、いざそういうリスクに直面した時、夫に扶養され経済的・社会的に自立していない立場にいる妻は、なかなか身動きが取れないであろう。仕事を辞めるべく妊娠・結婚するというのは自らそういった立場に自分を落とし込むことでもある。この著者はそうした想像力を働かせることなく、寿退社についてもまた、「女はいいよなあ、結婚ていう武器があって」と思っているのだろう。

 また、「妊娠した」と申告されても、責任など取らずに消えてしまう男性も存在する。女性側に経済力がなくても、そんなことは関係がない。しぶしぶ結婚したとしても離婚し、子供の養育をしないうえ養育費も払わない男性もいる。そうなった場合、何も問題なく女手ひとつで子育てしていける女性がどれだけたくさんいるというのか。

 そんなことを踏まえると、私はいわゆる計画妊娠を女性の武器と断言することには同意できかねるのだが、それとは別に、記事の冒頭に書かれた男女に共通する価値観として<ナマのほうが気持ちいい、という考えは、男女ともに共通するものではないかと思います>という見解も、無理があると思った。「気持ちのよさ」というのは、究極に個人的な感覚・尺度であって、個人的であるがゆえ、他者との共有することは不可能なはずだからだ。にもかかわらず、<ナマのほうが気持ちがいい>という共通見解に落とし込むのはあまりに煩雑である。また、<男は「避妊するかしないか(ナマで中出しか否か)」の2つの選択肢しかもっていません>というのも現実に見合っていない。「ナマで中出し」だけでなく、「ナマで外出し」も避妊ではない。外出しは避妊したことにならないと教わった経験があっても、外出しすれば避妊できるだろうと楽観している男性を知っているが、この著者もそうなのだろうか。

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中崎亜衣

1987年生まれの未婚シングルマザー。お金はないけどしがらみもないのをいいことに、自由にゆる~く娘と暮らしている。90年代りぼん、邦画、小説、古着、カフェが好き。

@pinkmooncandy

バナナ&ストロベリー

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