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教育無償化が争点のひとつとなっている選挙を前におさえておきたいこと。日本の女性は教育の恩恵を社会に手渡し過ぎている。

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日本の高等教育の私的負担は世界で最も重く、政府負担は先進国で最も軽い

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 上の図は、女子の高等教育の費用負担を示したものです。

 青棒が示すように、日本の高等教育の私的負担は約1300万円と世界で最も重いものとなっています。そして、オレンジ棒が示すように、日本の高等教育の政府負担は200万円にも満たず、チェコに次いで世界で2番目に軽いものとなっています。それだけ日本は、個人に教育のコストを強いているということです。

 授業料だけを見るとアメリカなど日本よりも高い授業料を取っている国もあります。しかし、日本は他国のように政府による「奨学金」 がほとんどなく、大半が「教育ローン」です。公的な教育ローンを運営するためにも税金は必要なのですが、やはり奨学金と比べると微々たる額なのが現状です。

 ここで「奨学金」と「教育ローン」は何が違うのか説明しておく必要があるかもしれません。少しややこしい話になるため、読み飛ばしていただいても結構です。

 日本では「霞が関文学」という言葉があるように、政府資料などで非常に独特な言葉遣いをされることがあります。教育分野もそれに漏れず、奨学金にも「奨学金(給付)」と「奨学金(貸与)」という国際的には通じない言葉遊びをしています。

 国際的に教育政策の分野では、「奨学金(給付)」のうち授業料をカバーする部分を「奨学金」、生活費などをカバーする部分を「給付金(stipend)」、そして「奨学金(貸与)」を「教育ローン」と区別します。

 日本は長年この「教育ローン」頼みでしたが、近年「奨学金」が拡大しつつあります。しかし「給付金」がほぼないため、放棄所得が全くリカバーされず、個々人の肩に重くのしかかっているのが現状なのです。

個人の努力にただ乗りする日本政府

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 上の図は、女子の高等教育の私的・社会的収益率を示したものです。青棒が示すように、日本の女子の高等教育の私的収益率はわずか3.1%と先進国の中で最も低く、下から2番目のオーストラリアの半分程度となっています。これと対照的に、オレンジ棒が示すように、社会的収益率は21.4%と、21.5%のチェコに次ぎ先進国で二番目に高い値となっています。

 日本は高負担・高福祉型の国家ではなく、税負担率が重い国ではありません。そのため、女性一人が高等教育を受けることによって政府が得ているメリットは約1600万円と、データのある29カ国中10番目で、平均よりも約200万円多い程度にしか過ぎません。それにもかかわらず社会的収益率が高いのは、それだけ政府が高等教育の費用を負担していないからなのです。

 教育の私的収益率と社会的収益率の関係は国によって大きく異なっています。教育の質が高く多くの成果を生み出しているため、私的収益率も社会的収益率も高い国もありますし、その逆に両方とも低い国も、2つの差が激しい国もあります。

 しかし、日本の女子高等教育の場合、社会的収益率が私的収益率の7倍近くもあるという特異な位置にあります。これは簡単に言えば、政府は、税制や社会保障・福祉のあり方、個人に教育費の負担を強いるような仕組みによって、個人の努力にただ乗りしている状況にある、ということです。

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畠山勝太

ミシガン州立大学博士課程在籍、専攻は教育政策・教育経済学。ネパールの教育支援をするNPO法人サルタックの理事も務める。2008年に世界銀行へ入行し、人的資本分野のデータ整備とジェンダー制度政策分析に従事。2011年に国連児童基金へ転職、ジンバブエ事務所・本部(NY)・マラウイ事務所で勤務し、教育政策・計画・調査・統計分野の支援に携わった。東京大学教育学部・神戸大学国際協力研究科(経済学修士)卒、1985年岐阜県生まれ。

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幼児教育の経済学