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教育無償化が争点のひとつとなっている選挙を前におさえておきたいこと。日本の女性は教育の恩恵を社会に手渡し過ぎている。

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日本の女性は先進国で最も高等教育の利益を政府に手渡している

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 続いて、高等教育の社会的収益率と私的収益率の比率を男女別で示したものです。先進国の大半の国が、男子女子問わず1を下回った比率になっています。それだけ多くの国では私的収益率のほうが高いというわけです(分母の私的収益率が多ければ多いほど、あるいは分子の社会的収益率が小さければ小さいほど、比率は小さくなりますね)。

 一般的に高等教育の利益は政府よりも個人が手に入れがちです。そのため「政府は高等教育への支出を控えるべきだ」と言われることがあります。「個人にとって得なのだから問題ない」と思う人もいるかもしれません。しかし必ずしも私的収益率だけが高ければいい、というわけではありません。例えば高等教育を受ける層には富裕層が多く、受けない層には貧困層が多いため、この状況を放置すると社会の格差はどんどん拡大してしまいます。それを防ぐためにも、社会的収益率をある程度の水準まで保って、それを原資に大学へ行かなかった/行けなかった層への再分配をする必要もあるのです。

 他にも図からわかることは、多くの国で男性の方が女性よりも、私的収益率に比べて社会的収益率が高くなっているということです。これは同じ高等教育を受けても、男性はその利益をより多く政府に持って行かれがちだということになります。

 先月の記事でも触れましたが、日本を除く先進国では女性の高等教育就学率が男性のそれを大きく上回っており、女性が政府から受け取る奨学金や給付金が大きくなっています。一方、労働市場での男女間の賃金格差から女性が納める税金の額が少なく、さらに女性のひとり親が受け取る社会保障なども大きいといった理由もあるため、男性の方が教育を受けることで得られる個人の恩恵が低いという傾向に拍車がかかります。ただし、女性の方が男性に比べて賃金が低いために女性が納める税金額が少ないことを考えると「男性は女性に比べて損をしている」という単純な結論が導き出せるわけではないことにも注意してください。

 それでは日本はというと……図をみていただければ分かる通り、多くの先進国からかけ離れた状況にあります。男女ともに高等教育を受けるメリットは、政府の方が大きいだけでなく、女子教育による社会的収益率/私的収益率の比率が、男子の3倍以上となっています。日本の女性は、男性に比べて教育を受けることで得られる恩恵を政府に手渡してしまっているのです。

 社会的収益率が高い理由は複数ありますが、そのひとつにはやはり政府による高等教育の費用負担が小さいという問題があるでしょう。

 さらに、OECDの計算方法には一つ大きな問題点があります。それは、以前東京大学が女子学生への家賃補助を打ち出したときにも解説したように、日本では政府の補助がより多く入っている旧帝国大学や国立大で女子学生比率が低く、コストが高い理系についても女子の進学の少なくなっています。男子学生一人当たりよりも、女子学生一人当たりの方が、公教育支出が少ないはずなのですが、OECDの計算ではそれが考慮されていません。実際の男女間の格差はより大きなものになっているはずです。

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畠山勝太

ミシガン州立大学博士課程在籍、専攻は教育政策・教育経済学。ネパールの教育支援をするNPO法人サルタックの理事も務める。2008年に世界銀行へ入行し、人的資本分野のデータ整備とジェンダー制度政策分析に従事。2011年に国連児童基金へ転職、ジンバブエ事務所・本部(NY)・マラウイ事務所で勤務し、教育政策・計画・調査・統計分野の支援に携わった。東京大学教育学部・神戸大学国際協力研究科(経済学修士)卒、1985年岐阜県生まれ。

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幼児教育の経済学