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生理をめぐるニセ科学 世界中で信じられていた「月経毒素説」

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BBC NEWS JAPANより

 BBC NEWS JAPANのサイトで、マダガスカルの月経タブー視を解消しようという活動が紹介されている

 動画に登場した女性は、初経のとき「月経中にマヨネーズを作ると固まってダマになってしまうから作ってはいけない」と教わったが、7年後、本当にそうなるのか誰もいないときに試してみたところ、固まらずにうまく作ることができたという。

 マダガスカルでは、こうした月経にまつわる俗説が、いまだに信じられているのだ。

 今も生き続けているかどうかは地域によって異なるが、月経が食品加工に支障をきたすという俗説は、世界各地で言い伝えられてきた。

 1970年代にアメリカのフェミニストたちが行った報告によれば、かつてフランスでは月経中の女性が近くにいるだけでマヨネーズがうまく作れないと言われていた(フランスはマダガスカルの旧宗主国である)。

 また南ヨーロッパでは、塩漬けや酢漬けがうまくできない、林檎酒が発酵しない、砂糖が白くならない、ベーコンがうまく仕上がらないと言われ、東ヨーロッパの農家の女性たちは、月経中にパンを焼いたりバターを塗ったりすることさえ禁じられていた。

 食品加工以外にも、南ヨーロッパの農村では、月経中の女性が触れると花や果物が萎びると言い伝えられていた。

  近代に入ると、月経が食品加工や植物に及ぼす影響について「科学的根拠」が示されるようになる。

 例えば、日本では1920年代に犯罪学者が、「最近ドイツのある学者が月経直前および月経初期の女性の血液中に『ヒヨリン』という名前の毒性物質を発見した。昔からヨーロッパで、月経中の女性が草花に触れると萎むと言われていたのは、この物質のためであった。『ヒヨリン』は女性の犯罪心理とも密接な関係を持っている」と報告している。

 同じ頃、アメリカの細菌学者が「メノトキシン(月経毒素)」が植物を枯らすと報告し、その後、この研究を裏づけようとした学者が「むしろ月経中ではない女性から高い『毒素』指数を検出した」と報告している。つまり、女性は月経中であろうとなかろうと「毒素」を持っているということになる。

 日本では、「ヒヨリン」はともかく「メノトキシン」について触れている性科学書は複数存在し、例えば1938年に刊行された『学生と性教育』には、「月経の血は昔から、何か不思議な力を持っているもののように思われて」いたが、それは「メノトキシン」のためで、「卵子の死によって出来、月経血または汗に混ざって排泄されるもの」と説明されている。

 「月経の血」が持つ「不思議な力」について触れている資料はたくさんあり、経血を塗ることで腫瘍や丹毒、産褥熱、狂犬病、頭痛が治るとか、経血をパンに包んで食べると月経が始まる(妊娠中絶を意味している)とか、不妊症にも効果があるなど、まるで万能薬のような扱いである。

 当たり前だが、以上はすべてニセ科学(似非科学)である。そして残念ながら、今日も月経にまつわるニセ科学が横行している。

 一昨年、P&Gがインドで販売している生理用ナプキン「Whisper India」のキャンペーン動画が、「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」のグラス部門(性差別や偏見の解消に貢献した広告が対象)で、グランプリを受賞した。

 「Touch the  pickle」と題されたこの動画では、若い女性が軽快に走ったり、スポーツをしたりしながら、笑顔でピクルスの壺に触り、その様子に年配の女性たちが喝采を送っている

 インドでは、月経中の女性がピクルスの入っている壺に触るとピクルスが腐るという俗説があり、この動画は、「女性たちよ、タブーなど気にせず、ピクルスの壺に触ろう!」と訴えかけているのだ。

 この動画を公開した直後、300万人近い女性がSNSなどを通じて「私もタブーを破る」と声を上げた。

 世界中に(日本も例外ではない)残存する月経タブー視がこうして徐々に解消されていく一方で、医学を根拠とした新たな月経タブー視も作られている。それは、「女性」について説明したい場合、女性特有の生理現象である月経が、最も利用のしがいがあるからだ。次回以降、新たな月経タブー視にも触れていきたい。

田中ひかる

1970年東京生まれ。著書に『月経と犯罪――女性犯罪論の真偽を問う』(批評社)、『「オバサン」はなぜ嫌われるか』(集英社新書)、『生理用品の社会史――タブーから一大ビジネスへ』(ミネルヴァ書房)など。

田中ひかるのウェブサイト

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