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バカリズムが『架空OL日記』で、抑圧されたOLたちのゆるやかな女子の連帯を描けた理由 西森路代×清田隆之(桃山商事)

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西森 『架空OL日記』でも、先輩の酒木さん(山田真歩)が「サンダルではなくパンプスを履きましょう」とか「冷蔵庫の中を整理しましょう」とか貼り紙をしていて、ああいうのもリアルでしたね。実際に、コーヒーサーバーの掃除のために当番でちょっと早めに来るルールなんかもあったんですけどね。そのときに、当番さぼる人というか、どっちかというと連絡もなしでやってない人がいるとめちゃめちゃ腹立つんですよ。一言いってくれれば、ぜんぜん変わるのに、何も言わない人が一番やばい。だから、実際には『架空OL日記』ほどうまくいってなかったかもしれない。でもそこでいがみ合っていたら、孤立してしまう。私はOLもやったし、フリーもやったし、契約社員で編集もやってたからわかるけど、孤立していてもまったく問題ない仕事とそうじゃない仕事があって、OLという働き方は後者なんです。個人の裁量があれば、好きな時間にご飯を食べて、やらないといけない用事があれば外で打ち合わせも資料探しもできるし、そんなに集団行動を重要視する必要はないかもしれません。でも、そうでない仕事では、ある程度、みんなでルールを見つけて、楽しくやっていくこともありだなと思っていました。しかも、そのころは長くても三年契約だったので、その三年を気分よくまっとうしようという気持ちもあったんで。『架空OL日記』は、派遣ではなかったですけど(派遣の人もちょろっと出てましたけど)そういう環境の中でのゆるい連帯の塩梅がとてもよかったです。

清田 そうそう、連帯があって、絶妙な距離感で仲良しなんですよね。いがみ合いも陰湿な陰口もないし、男絡みで仲が壊れることもない。これにはかなり意図的なものを感じました。Lifeのトークイベントでも話しましたが、個人的に最近のドラマや映画には「女子の連帯(=シスターフッド)」を優しく描く作品が増えていると感じていて、例えば朝ドラの『べっぴんさん』や『ひよっ子』(NHK)、坂元裕二脚本の『問題のあるレストラン』(フジテレビ系)や『カルテット』(TBS系)、大ヒットした『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系)など、いろいろ挙げられます。そういう作品が増えていて、『架空OL日記』もその流れの中にあると思います。

西森 男性が女性の物語を書くとき、「女性にはふわふわ楽しい会話をしていてほしい」という方向性にいく場合がありますよね。でも『架空OL日記』は、ふわふわした女性らしさというか、「こうであってほしい女性像」を描いているのとも違うんですよね。なんでもない会話を見て「萌え」を感じさせるとか、そういう消費される女子を描いているとも思えない。もしそうだったら、男性には人気だけど、女性にはさほど受けないというコンテンツになったと思います。

逆に、ギスギスしていがみ合って仲が悪くなるものを消費するパターンもある。私がもしOLモノを書けって言われても、ちょっと前だったら、やっぱりセオリーとしてそういう展開をどうしても入れてしまうんじゃないかって気もしてしまいます。でも『架空OL日記』はどっちでもなかった。やたら女性を貶めるか崇めるかになりそうなところを、そういう視点はまったく抜いて、それで面白い作品にしているのが本当にすごいですね。

清田 しかもすごいと思ったのは、ガールズトーク中に「顔を近づけてしゃべってくる上司の口臭がクサい」という話題になったとき、「うんこの臭いがするからウンハラ(ウンコハラスメント)だよ」「チカハラ(顔が近いハラスメント)、クサハラ(クサいハラスメント)、ウンハラ、日本の3大ハラスメントだね」とゲラゲラ笑いあっていたシーン。これを男性であるバカリズムが書いたのは本当に画期的だと思いました。というのも、男って「女同士は下世話な会話をしている」と思いつつも、そこから「自分たちが女性からジャッジされている」という想像を巧妙に排除してると思うんですよ。例えば「女性は俺のことをクサいと言ってるかもしれない」って、考えることすら恐怖ですもん。だから普通ならそういう想像は排除し、「女同士で陰口を叩きあってる」というイメージに逃げ込むと思うんですが、そうせず、バカリズムが「男の口からうんこの臭いがした」と盛り上がる女子たちの姿を正面から描いたのは本当にすごいことだと思う。

西森 それも、女性を「こうであってほしい」という目線で書いてないからですよね。それと同時に、ちゃんとOLの生活にリアリティがあるんですよ。9話で描かれた「早帰りの日」のエピソードは、さっさと店舗を閉めて帰り支度をする男性上司たちに、「全然終わらないんですけど」と女性行員が言っても無視されて、心中で悪口言いながら黙々と作業をする。上司たちは、下の人の作業量なんか見ていないんですよね。「お達しを出せば皆早く帰れていいだろ」くらいの考えでやっている。

別にあの上司たちはそこまで悪い人ではないのかもしれないけど、権力を持っているからこそ無自覚で鈍感になるという部分も描かれていたと思う。バカリズムさんに観察眼があるからこそ、いろんなものが矛盾なく入っているんでしょうね。

清田 昼食後の女子トイレで歯磨きをするシーンも興味深かったです。5人がみんな歯を磨きながらしゃべってるから、何言ってるのかさっぱりわからない。なのに、不思議と会話が成り立ってるんですよ。あのシーンから「女同士の会話は適当で意味がない」というメッセージを受け取ることもできるかもしれませんが、男である自分にとっては、むしろ“女性特有の高度なコミュニケーション”に見えました。あれっておそらく、相手の言葉は聞き取れないけど、各々が勝手に意味を読み取りあって会話してるわけですよね。これは男にはできない芸当です。男の人って、会話にテーマ(何について話してるか)とゴール(どこに向かって話してるか)がないと不安になってしまう傾向があると思います。だから、仮に男だったら「えっ、今なんつった?」「これってなんの話?」と不安になってしまうはず。

西森 『人志松本のすべらない話』(フジテレビ系/以下『すべらない話』)みたいですね。話の骨組みがしっかりしてて、枝葉を茂らせてちゃんとオチをつけて、っていう。

清田 そうそう。『すべらない話』が男性的な会話スタイルの極北だとしたら、あの歯磨きは対極にあると思います。

西森 でも、あれは参加している人も何を話してるか本当はわかってないんだけど、わざわざ「ちょっと待って!」って止めるよりも、雰囲気のまま会話を続けていいや、っていう感じかもしれない。

清田 深読みしすぎですかね(笑)。でも、適当に受け流していいところと、ちゃんと意味を共有すべきところを的確に判断しながらコミュニケーションを進めていくのって、かなり高度なオペレーションですよね。ガールズトークの文化がある女性はそのあたりの技術水準が高い。ここには圧倒的な男女のレベル差があると感じます。

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清田代表/桃山商事

恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表。失恋ホスト、恋のお悩み相談、恋愛コラムの執筆などを通じ、恋愛とジェンダーの問題について考えている。著書に『二軍男子が恋バナはじめました。』(原書房)や『大学1年生の歩き方』(左右社/トミヤマユキコさんとの共著)がある。

twitter:@momoyama_radio

西森路代

ライター。1972年生まれ。大学卒業後、地方テレビ局のOLを経て上京。派遣、編集プロダクショ ン、ラジオディレクターを経てフリーランスライターに。アジアのエンターテイメントと女子、人気について主に執筆。共著に「女子会2.0」がある。また、 TBS RADIO 文化系トークラジオ Lifeにも出演している。

twitter:@mijiyooon

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架空OL日記 1 (小学館文庫)