社会

軽視される痴漢被害、『痴漢冤罪を恐れる動画』に見る“男性は被害者だ”の構図

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 2017年の春に頻発した痴漢を疑われて線路に飛び降り逃走事案。痴漢をしたかどうかはっきりしない状態であるにもかかわらず逃げたのは冤罪被害者にならないためと、無実のものが自分を守るために逃げたのだという意見が多く飛び交い、それに伴って痴漢冤罪怖いの空気が蔓延した。

 最近では飛び降り逃走自体が少なくなってきたことからか、こうした声も少なくなってきているが、103日、『Yahoo!映像トピックス』に『痴漢えん罪「怖い」サラリーマンの本音』なる動画がアップされた。

 動画の紹介文には、次のようにある。

『痴漢行為を疑われた男性がホームに飛び降り逃走するケースが多発、不運にも死亡するケースも出るなど、昨今あらためて注目を集めている「痴漢」と「痴漢えん罪」。毎日満員電車で通勤している皆さんは、いったいこの話題をどのようにとらえているのでしょうか。夜の東京・新橋で、会社帰りのビジネスマンの皆さんに「えん罪の危険を感じるか」「どのように対策しているか」など、うかがってみました。』

 動画を見ると、「痴漢」について会社帰りのビジネスマンたちがどう捉えているかの要素はなく、インタビューは「痴漢冤罪」にのみフォーカスしている。夜の新橋でサラリーマンたちは、痴漢冤罪の被害者にならないための対策をめいめい語る。

「つり革をできるだけ持って、片手でスマホを持ったりとか 自分の両手は触ってませんよとアピールするしかない」

「友達では一人いましたね 間違われてお尻触ったでしょって言われた人がいたらしく 弁護士を後で呼ぶので 自分は逃げないのでと 電話番号を渡してその場を去ったというのはあったと聞きました」

「自分は何もしていないのでDNA検査してくださいというのを、最近ニュースでやってましたね」

 くどいようだが、この動画の紹介文には、春に頻発した逃走事案について触れ「痴漢」と「痴漢冤罪」について語る、とあるが、実際のインタビューでは「痴漢冤罪」についてしか語られていない。だが、痴漢を疑われて逃走した者たちが全て冤罪なわけではない。あれらを「冤罪である」と一括りにまとめることは、あまりにも雑で、痴漢被害そのものを軽視しすぎていると言わざるを得ない。

 何度もwezzyでは紹介しているが、春に線路逃走したうちのひとりはのちに逮捕され公判で痴漢を認めている。にもかかわらず動画では、春の飛び降り事案と「冤罪」のみを絡めてしまっている。そして逃走したまま行方のわからない痴漢疑いの男性たちについても「冤罪」だと断定してしまうことになる。それが冤罪かどうか、詳細がわからない状態で、「冤罪だから逃げた。冤罪は怖い」というイメージだけが広まっていくことは遺憾である。

 また動画の終盤には「男性から痴漢された」と語る33歳男性のインタビューもあり「本当にそんな(男好きな)人がいるんだなと」と、ゲイが都市伝説であるかのような口ぶりで驚きを交えて被害体験を語っている。ゲイだから痴漢をするわけではないだろう。いくつもの問題を孕んだ動画である。

 別の男性は電車で「グッと寄ったら睨まれたことある」「邪魔だった」など、車内で女性の位置が邪魔になっていたからそれを伝えようと近寄ったにもかかわらず、痴漢と誤解されたのか睨まれたと発言をしている。逆の立場で考えてみることはできないだろうか。電車の中で急に近寄ってくる男性がいたときに、警戒心を発動しなければならない女性の立場、ということだ。

 何度も取り上げているように、痴漢冤罪は、痴漢を働く人間が実際に存在しているからこそ生まれる問題であり、痴漢被害さえなくなれば冤罪もなくなる。痴漢の検挙者の多くは男性であり、被害者の多くは女性である。だがそれに踏み込んだコメントは動画では全くなかった。

 動画で男性たちは、痴漢冤罪に怯えていることを語り、電車の女性が邪魔であると語り、また男性に痴漢するゲイの男性がいるという話をする。こうしたインタビューをあえて「冤罪」をテーマにした動画に盛り込む意味を少し考えてしまうと、ひょっとして動画の制作側は、世の多くの男性が『ゲイからの痴漢被害に怯え、不注意な女性から痴漢冤罪の罪を被せられることを恐れる』弱き存在であると伝えたいのだろうかとも思えてくる。そして、そのように認識している男性は確かにいるのだろう。自分は加害者になることはないのだから、痴漢といえばゲイに触られるか冤罪被害でしか関わる機会はないはずだと。見ず知らずの男性が女性に痴漢をはたらいていて、それが一因で女性たちは警戒心を募らせていて(女性専用車両もできて)、自分が怯える痴漢冤罪も発生するという仕組みについては、思いを巡らせないのだろうか。

 昨今の線路飛び降り騒動で男性にとって身近になったのは「冤罪の恐怖」だけなのかもしれない。だがもう少し、日本で本当に痴漢事件が発生し続けていることにも目を向けてもよいのではないか。以前記した通り痴漢の検挙人員数は減少を続けているが、実際に被害に遭いながらも様々な事情からそれを申告しないことで、結果的に検挙数などのデータにはのぼらない犯罪の数(暗数)がある。性的事件はもっともこの割合が高い。次のインタビュー動画では、どうしたら痴漢を減らせると思うか、ぜひ男性に聞いてみてほしい。考えを何も持たないわけではないはずだ。

(wezzy編集部)

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