社会

LGBT差別記事1本につき648円。「みんなの意見」の形成を狙ったクラウドソーシングでの執筆求人

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 クラウドソーシングといえば、今年9月に「クラウドワークス」で、政治系、特に保守色の強い記事の作成を募集する依頼が出ていたことが話題になっていた。

 「共産党の議員に票を入れる人は反日」「日本にリベラルは存在しない。いるのは反日だけ」などの見出しが使われていた政治系ライティングの依頼は、利用規約および仕事依頼ガイドラインに反しているとして、クラウドワークスによって掲載を中断されている。詳細については、Buzz Feed Japanの記事を参照して欲しい(「嫌韓」「反日」の記事を書けば800円。政治系ブログ作成の求人が掲載中止に)。

 なお「クラウドワークス」には過去に、「女尊男卑の風潮に独自の意見で論理的にモノ申してください」という題で、「女尊男卑の風潮(つまり、女性が優遇されてワガママばかり言って、男性が不利になっていく流れ)に対して、独自の意見を論理的に言語化する。フェミニズムに対するアンチの主張を行う」ことを目的としたライティング仕事も募集されていたが、「ランサーズ」で冒頭の仕事を募集していた依頼主も「『フェミニストが嫌い』『男女平等の主張が苦手』な人向けの共感してもらえる記事の執筆依頼」を出していた。やはり保守色の強い人びとは、フェミニズムや性的マイノリティに対するバッシングを行っているようだ。

 こうした依頼で書かれた原稿はおそらく、キュレーションメディアや2chまとめサイト、ツイッターなどに放流され、「大きな流れ」として認知されるようになるのだろう。「これが、みんなが思っていることなんだ」「LGBTのことを取りあげるメディアはなんかおかしい」「世の中は女尊男卑になっていて、フェミニズムなんて間違っている」などとして。

 クラウドワークスに掲載されていた募集記事は、その意図が明らかであり、依頼主の政治的主張も明示されていた。ある種の潔さがある。一方、冒頭で紹介したランサーズの「LGBTが嫌いな人への共感を寄せる記事」の執筆依頼は、クラウドワークスでのボシュ記事に比べると手口が巧妙だ。

 依頼概要にある以下の一文。これは、読者にとってはお馴染みの話法かもしれない。

「彼ら・彼女らの人権はもちろん尊重されるべきだが、LGBTが嫌いなひとの意見も同等に尊重されるべき」

 「人権は尊重されるべきだが」という一言を免罪符として使った後に、差別的な発言が展開される。この話法はインターネット上だけでなく、様々な場面でみられる話法だ。「~だが」に続く言葉が、その人の中心的な主張であり、たいていそこで「人権は尊重されるべき」と矛盾する、差別的な発言が行われる。おそらくその「人権」に、話題になっているマイノリティは含まれていないのだろう。

 このランサーズでの依頼では、「~だが」のあとに、「LGBTが嫌いなひとの意見も同等に尊重されるべき」と続けられている。

 「好き嫌い」は非常に厄介だ。ときに「確かに、誰かを嫌うのはその人の自由だし、それを表明できないのは表現の自由を侵害してる。だから、LGBTを嫌いと言ってもいい」と受け取られかねないからだ。

 だが「差別」の問題を「好き嫌い」の問題にすり替えてはいけない。この依頼は、「好き/嫌い」という言葉を使用することによって、「あくまで個人の好き嫌いの問題であって、差別の意図はないのだ」と主張する体をなしているだけで(ご丁寧に、注意点として「当該記事は、LGBTをむやみに批判する記事を募集する記事ではありません」ともある)、実際には、偏見と差別の助長を促している。

 繰り返すが、これは人権の問題であって、「好き嫌い」で済ませていいものではない。

 性的マイノリティへの偏見や差別の問題はここ数年で社会にも徐々に共有されつつある。しかし、「LGBT」という語は広まっても、どこまで本気で受け止められているかは怪しいところだし、問題がすべて解決したとは到底言えないのが現状だ。現に、性的マイノリティであることを理由に、様々な権利が制限されているのが日本社会である。

 こうした中で、「LGBTが嫌い」という共感を促すことを意図した記事が放流されるとどうなるだろう。この記事に共感した人びとが合流すれば、流れはどんどん大きくなる。そうした人たちはきっと、「人権は尊重されるべきだよね」と断りながら、LGBTを嫌うことを堂々と表明するようになり、偏見を助長させていく。強化された偏見は、より差別を深刻化させ、現時点でも制限されている様々な権利がいっそう失われていくことにもなりかねない。

 権利が踏みにじられている人びとの状況を放置してまで、「嫌い」であることを表明して共感を促し、「みんなこう思ってる」として、偏見と差別を強化することは望ましいことではない。結局、差別は解消されないし、彼らは「人権」とは何なのかすらも考えない。そして「人権」のことを考えずにすむ人たちは、そうした声に埋もれた、マイノリティの声に耳を傾けることなく、いずれその声に気付くことすらなくなってしまう。

 依頼主は概要の中にこんな一言を書いていた。

 「周りの友人などに相談できず苦しんでおり、記事があることが救われる方達がたくさんいます」(原文ママ)

  媒体の種類を問わず、メディアにはLGBTへの偏見や差別を垂れ流す記事や番組が多数制作されている。周りの友人などに相談できず、本当に苦しんでいるのは誰だろう。
wezzy編集部)

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